なき犯人(将倫)

※東大文芸部の他の作品はこちら→http://slib.net/a/5043/(web担当より)

この作品は、東大文芸部の部誌で掲載されているなきシリーズの第二作になります。初出は2011年9月発行のNoise38です。

≪問題編≫

「ねえねえ、郁太ー」
 背後からの声に反射的に振り返りそうになりつつ、天谷郁太(てんやいくた)は自ら起こそうとしていた挙動を押さえた。この声のトーンはまずいと、長年の経験から郁太は直感した。
「郁太ってばー」
 声の主である淵戸日奈(ふちとひな)は諦める様子などこれっぽちも見せず、再度郁太の名を呼び掛けている。我慢比べをして負けるつもりは毛頭ないものの、勝った後に得られるものを想像するとぞっとしてしまう。これも経験則だ。だから、郁太は早くも諦念を抱えて日奈に応えることにした。
「どうした、日奈?」
 せめてもの足掻きにと、精一杯うんざりとした表情を顕にした。だが、日奈に郁太の意図が通じることはない。いつもと変わらず、明るい笑みを浮かべている。その手に紙の束を抱えながら。
 毎度の展開にもう何の感慨も抱くことはなく、郁太はただ日奈の手にある紙を見詰めた。たっぷり時間をかけてから発する声のトーンは、これまたいつも通り表面上は感心を示すものだった。内心などおくびにも出さずに。
「――また、出来上がったのか?」
 文芸系の部活に所属していないのに日奈は云々、月一以上で何かを書き上げてきて云々、短編あり長編ありで云々、毎度郁太は半強制的に読まされるが云々、日奈の文章は上手くないので云々、以前断ろうとしたらひどい目にあってしまい云々――。
 つまるところ、郁太は今や何の抵抗もせずに、内心の苦々しさを押し殺して日奈の作品を読むしかないのだ。いくらそれが苦行であり面倒でしかないとしても。
 ところが、展開している状況は同じなのに、郁太の問いに対して日奈は少し苦い顔をしている。郁太が訝しもうとするが、そんなポーズよりも先に脳裏にある可能性が浮かんだ。
「おい、日奈、まさか」
 そこまでを言い掛けて、郁太は言葉を飲み込んだ。恐らく郁太の推測は正しいだろう。日奈に関わる悪い予感は、九分九厘当たるのだ。だから、この先を言ってしまったら自分でその推測を現実にしてしまうような気がした。だが、郁太の意図に関係なく、郁太は日奈に巻き込まれる。それならば、言っても言わなくても結果は変わらない。郁太がまた三度手間を被るだけだ。
 郁太は深くため息をついた。唯一の救いは、今回は枚数が少ないことだろうか。
「……まだ完成していないんだな?」
 郁太の言葉は問いではなくもはや確認になっていた。原稿を持ってきたのに浮かない顔をしている理由など、それ以外に考えられない。前回と同じだ。
 郁太の確認に日奈は表情を変えた。一見しても判別しづらい、複雑な表情だ。口に出さずに状況を分かってもらえた嬉しさか、未完成である理由による困惑か、未完成の作品を押し付ける後ろめたさか。その表情に込められたいくつかの感情は思い付くが、少なくとも最後だけはあり得なかった。
「そうなの。郁太に助けてほしいのよ」
 日奈からの回答を得て、郁太は眉を顰めた。未完成の作品を持ってきたのは前回が初めてだが、今回は少し事情が違うらしい。どう転んでも郁太には面倒が残るだけだが。
「前と違ってやや物騒に聞こえるな。日奈が言うと特に」
 幾ばくかの皮肉を交えたものの、日奈に通用するはずもなく、素知らぬ顔で日奈は事の次第を説明し始めた。
「そう。今回もミステリ風のを書こうと思ったの。前回は郁太に看破されちゃったから、今度は絶対に不可能な状況を作り出してやろうと思ってね。とりあえず後先考えずに進めて状況だけは作り出したんだけど、それから私もどうしたら良いか分からなくなっちゃって」
 流石の日奈も苦笑いを浮かべているが、郁太は呆れて声も出せなかった。開いた口すら塞がらない。いくら郁太を出し抜こうと意気込んでいたからといっても、ミステリを書くのに論理の帰着点を考えずに書き始めるなど信じられない。それは何の支えもなく橋を片側から架けるのに等しい。どんなに序盤は順調でも、いずれは自重で瓦解してしまう。しっかりと支えて両側から擦り合わせるのが普通だ。
 郁太は額に手をやった。日奈のことを馬鹿にしているわけではないが、これではあまりに間抜けだ。郁太を取り囲む状況は、前回よりもはるかに悪化しているらしい。
「で、俺にどうしろと? 論理が繋がらないなら最初から考え直せばいいだろ」
 いくら突き放した言い方をしても、何の意味も持たないことは百も承知だ。なのに郁太の口から言葉が衝いて出るのは、ある種の形式美だろうか。周りから見ればそうであっても、当の郁太は虚しさしか感じない。
「うーん、設定から作り直すっていうのも考えたんだけど、やっぱりここまで出来たのを破棄しちゃうのはもったいなくて。だから、郁太に解いてほしいの」
 勿体無いと思うのなら始めからそうならないように出来なかったのか、とか、不可能な状況を作ったんじゃないのか、とか、郁太の労力を考慮には入れないのか、とか、言いたいことは山のようにあった。しかし、結局郁太は何も言えなかった。爛々と輝く日奈の瞳を前にすると、蛇に睨まれた蛙のように抗う気が失せてしまう。過去一回の過ちがここまで尾を引くとは思わなかった。生物的なことは詳しくないが、きっと蛇の尻尾は長いのだろう。
「――分かったよ。読めばいいんだろ。ただ、日奈が『不可能な状況』を作ったって言ったんだから、俺が解けなくても文句は言うなよ?」
 郁太の承諾の返事に日奈は満面の笑みを浮かべた。その顔には、もう先程まで見せていた困惑げな色など露ほども見えない。
「郁太なら大丈夫だよ。だって前に完璧な推理をした名探偵だもの」
 日奈の口調と台詞から、どうにも妙な感じがする。いくら郁太を過信しているとはいえ、解けることを前提としているように聞こえる。それに、日奈に名探偵と言われ、その機会がまた与えられることに少し心を躍らされていることが悔しくてならない。だが、どうせ日奈の手の内で踊ることになるのだ。ならば精々道化を演じることに興じればいい。
「はい、これ」
 日奈が差し出してきた原稿を郁太は受け取った。視線を紙面に落とすと、そこには大きな書体で「三観四冤」と書かれている。三寒四温を捩ったつもりだろうか。タイトルから何となく内容は窺えるものの、なるほど、確かにこれでは誰も犯人がいない。前回といい、日奈の皮肉を込めた題名を付けるセンスは認めざるを得ないかもしれない。しかも、日奈はそれを無意識に行っているのだから末恐ろしい。
 郁太は背中に冷たい怖気を感じつつ、紙を一枚めくり原稿を読み始めた。今回は流石に最初から物語が始まるようだ。それが至極普通だが。


   ***


 池藤向日(いけとうむこう)が連絡を受けたとき、ちょうど新聞を読み終えた頃だった。会話を終えて受話器を戻すと、手早く身支度を済ませて現場へと向かった。
 現場には既に警察の姿が見えており、立入禁止のテープも貼られている。池藤は躊躇なくそのテープを潜ると、現場へ――宝石店の中へ――入っていった。
「連絡を受けた池藤ですが――、」
 池藤は手近な警察官に声をかけて名乗った。声をかけられた警察官は一瞬怪訝な顔をしたが、池藤の素性を知るや表情を明るくした。
「探偵の池藤さんですね? お待ちしていました」
 池藤向日は私立の探偵業を営んでいる。その洞察力と推理力はこれまでに数多の事件を解決に導いており、警察からの覚えも明るい。現に、難事件があればこうして警察から直々に依頼されることもある。その界隈では名の知れた探偵なのだ。
「ええと、それで事件の概要を教えてもらえますか?」
 池藤は周囲の様子を見ながら尋ねた。店内にひどく荒れた様子はないが、人の喧騒があり、一部のショーケースの中身がごっそりなくなっている。そこから事件の大体の見当はつくが、具体的なことは話を聞かなければ分かるべくもない。
 警察官は右手で手帳を取り出すと、何枚かページを捲り該当するページを開いた。結構まめな性格のようだ。
「午前九時半過ぎに、こちらの宝石店に拳銃を所持した強盗犯が押し入り、二千万円相当の宝石類を強奪して逃走しました。交番にいた私のところに通報があったのが、午前九時四十三分。私は本部に応援を要請してからこちらに駆け付けた次第です」
 なるほど、と池藤は頷き、警察の中では恐らく一番事件に詳しいであろう目前の警察官の全身を見た。確かに、地域警察官らしい真面目な印象を受ける。格好も整っており、まさに「交番のお巡りさん」に相応しいと言えそうだ。
 次に池藤は腕時計に目を向けた。時計の針は午前十時三十分を指している。そこから移動の時間を差し引くと、今回は池藤に連絡が来るまでの時間が実に短い。池藤は事件の難解さを覚悟し、続きを尋ねた。
「それで、容疑者や目撃者など、犯人を特定する手掛かりのようなものはありますか?」
 池藤が尋ねると、警察官はペンを取り出して手帳に何かを書き込み、「これです」と池藤に示した。
「これは――容疑者ですか?」
 池藤が覗き込んだページには、煩雑にものが書き込まれている中で、強調するようにいくつかの丸が描かれている。今警察官が書き込んだのはこれらだろう。その丸の中には四人の名前が書かれていた。
 次に、警察官は店内の一角を指差した。そこには、一目して警察関係者ではないと分かる風体の人が四人立っている。いずれも男ではあるが、共通点はなさそうである。
「はい、あちらに並んでいる人達がそうです。左から、足阿野(あしあの)湯間谷(ゆまや)坂江(さかえ)足鳥(たしとり)です」
 池藤は手帳に記された名前と容疑者とを見比べながら、その容姿や特徴を観察した。強盗というからには、いくらかの目撃証言もあるだろう。そして、そうした条件が揃う中で池藤が呼ばれたということは、容疑者と証言とに齟齬があるに違いない。
「分かりました。それで、目撃証言などは?」
 池藤は眼光を鋭くさせて警察官に尋ねた。ここが一番重要なところだ。
 尋ねられた警察官は心得た様子で池藤を机の前まで連れて行った。その顔には、やや苦い色も見える。もうある程度は熟慮した上なのだろう。
「目撃者は三人いました。その三人は、この近くの様子をカメラで撮影しているときに、偶然事件に遭遇し、それを写真に収めたようです」
 池藤は机の上の三台のカメラに視線を寄越した。普通のデジカメが二台に一眼レフのカメラが一台。池藤は早速カメラが捉えた目撃証言を見分することにした。
「これは、犯人が宝石店に入るところですかね」
 最初に手にしたそれに映されていたのは、犯人と思しき人物の上半身の後ろ姿だった。その背後――犯人の正面――には宝石店の内観がぼけて映っている。
 犯人は青緑とオレンジのボーダーのジャケットを着ており、顔には覆面を被っている。覆面とジャケットの隙間からは、黒い髪がわずかに見える。犯人について分かることは精々それくらいだろうか。
「なるほど。こんな格好をされていたら犯人と思われるのは当然ですね」
 池藤は細部にまで目を光らせてから、次に移った。
 次に写されていたのは、犯人が拳銃を店員に向けているところだった。中央に犯人、左側に両手を挙げた店員が写っているのが見て取れる。さらに、足下は切れているが、紺色のズボンを履いた犯人の下半身も写っている。そして何より池藤が注目したのは、犯人の腕だった。
「この犯人、左手で拳銃を構えてますね」
 水平に挙げて拳銃を握る犯人の腕は、間違いなく左腕だった。ということは、犯人の利き手は左手だと断定してよいだろう。
 目新しい情報はこの二点に尽きた。あとは最初と同じで、覆面、青緑とオレンジのボーダージャケットが分かるくらいだ。人物との対比で身長が一七〇センチメートル前後ということも分かるが、「前後」の範囲は曖昧なため余程かけ離れていない限りは参考程度にしかならないだろう。
 最後のカメラに映されていたのは、歩道を走る犯人の姿だった。宝石店との位置関係はこれだけでははっきりとしないが、背景にもきちんと建物などが映り込んでいるのでいずれは照合されるだろう。容疑者が絞れているということは、大方の逃走経路は既に判明しているはずだ。
「これから分かることは――、これですか」
 池藤は犯人の腰の辺りを指差して言った。ジャケット越しではあるが、腰の部分にわずかな膨らみがある。形状からして、ベルトポーチだろうか。あとは前と同じで、覆面とボーダージャケット、ズボンを身に付けている。
「これらをまとめると、犯人は黒髪である、左利きである、青緑とオレンジのボーダーのジャケットを着ている、腰にポーチのようなものを付けている、紺色のズボンを履いている、――この五点ですかね」
 池藤が半ば警察官に確認するように呟くと、警察官はそれに仰々しく頷いている。
「ええ、ええ、その通りです。我々もその判断の下、捜査を開始しています」
 しかし、警察官の表情はどこか芳しくない。泳いだ目は、池藤の方というよりもむしろ容疑者達の方に向かっている。
 池藤も警察官の視線を追い、四人の容疑者の方に向けた。先程に一度観察をしているだけあって、池藤には警察官の微妙な反応の意図は直ぐに読めてしまった。
「ただ、その――」
 警察官が気まずそうに言うのを、池藤は遮って自分の言葉を重ねた。それはまさに、先程警察官が放った言葉と酷似していた。
「ええ、ええ、分かっています。確かに、今容疑者とされている人物の容姿とは食い違うところがあるようですね」
 注意して見るまでもなく、目撃証言から得られる五つの特徴を全て備えている人物は四人の中にはいなかった。
 とはいえ、容姿だけで断言するわけにもいかない。この場に立たされるまでの短時間でも、ある程度見掛けを偽ることは出来る。とりあえず、四人の話を聞かないことには始まらない。池藤は容疑者四人の立つ店内の一角に向かった。
「すみません。私は探偵の池藤向日と言います。少しお話を伺ってもよろしいですか?」
 池藤は四人の前に立つと、丁寧な口調で話し掛けた。四人は最初こそ怪訝な顔をしたが、池藤の柔らかな態度を見てその表情を解いた。全員が承諾したのを確認してから、池藤は最初の一人に話し掛けた。
「では、左のあなたから。名前は、足阿野さんで合ってますか?」
 足阿野は頷くと、簡単に自己紹介をし、事件前後の行動を説明した。やはりというべきか、アリバイのようなものはなく、本人の言からでは黒とも白とも付けられなかった。
「ちなみに、足阿野さんの利き手はどちらですか?」
 池藤が尋ねると、足阿野はひらひらと右手を振った。その様子は、見た目から窺える軽さと合致していた。目撃証言にある五点に限って言えば、足阿野の容姿は、上着には青緑とオレンジのボーダーのジャケット、下には紺色のズボンを履いている。黙視で測る身長は一七〇センチメートル前後。だが、一致するのはそれだけだった。明るめの茶髪は首筋にまで掛かっており、右利き、そして他に荷物はなく、当然腰部にも何かを付けている様子はない。身長も前述の通り参考程度にしかならない。
「二つ、ですか」
 池藤は誰にも聞かれないように独り言ちた。犯人が腰に付けていたものがポーチだとしても、それくらいなら直ぐにどこかに捨ててしまえる。だが、利き手は短時間で変えられるようなものではないし、覆面をしているのに髪の色に気を遣うとも考えづらい。だとすると、二点あるいは三点しか目撃証言と一致しない足阿野は犯人ではないということになる。
「ふむ。なるほど」
 池藤は小さくため息を吐くと顎に手をやりしばし思考に耽った。ここから考えられることは何か。いくつかの推理を頭に思い浮かべた池藤だったが、直ぐに思考を切り替えると次の人物に視線と意識を向けた。
「では、次の方。湯間谷さん、ですよね」
 池藤に促された湯間谷は、わずかにどもりながら先程と同様に事件前後のことについて話し始めた。
 湯間谷の話に耳を傾けながらも、池藤は意識の大半を目に費やして湯間谷の姿を観察した。
 目撃証言と合う箇所は、髪の色と紺色のズボン、それに身長だけであった。上着は落ち着いたグレーのカーデガンで、鞄は右手に提げている。また、腕時計を左手にしていることから、湯間谷は右利きであると見込まれる。事実、確認したらその通りだった。ちなみに、身長は一七〇センチメートルに少し届かないほど。それでも、「前後」の範囲には収まっていると言えた。
「また二つ」
 池藤は落胆するでもなく、そう呟くと再び思索に耽った。上着も、脱ぎ捨てるだけならば時間をかけることもなく可能だ。池藤の頭の中には、六行三列の表が組まれていた。証言と容疑者を縦と横に入れ、合致する枡にはチェックを入れていく。前述のように判断がつきかねるところは保留にしておく。
「では次の方。坂江さん」
 池藤が名前を呼ぶと、坂江は淡々とした調子で証言をした。先に二人が話したことで既に話すべき内容をまとめていたのだろう。簡潔で分かりやすい説明だった。
 坂江は総じて知的な雰囲気を醸している。薄い藍色のブレザーに、肌色のズボン、髪は薄らと茶色に染めている程度。ここまでだと証言のどの特徴とも一致していないが、肩から提げたポシェットはちょうど腰の辺りに位置している。また、坂江は左利きだった。身長は相も変わらず一七〇センチメートル前後。
「これも二つですか」
 池藤は呟くと、脳内で表の列を増やして項目を埋めた。残る容疑者は一人。外見が与える印象は、大様。
「最後に、足鳥さん、お願いします」
 池藤の言葉に一瞬眉を顰めてから、足鳥は話し始めた。こちらも、つかえることなく必要な情報を述べていく。その間、池藤の視線は足鳥の身体を詳察した。
 髪の色は黒く、上着は目撃証言通りのボーダージャケット、腰にはポーチを提げている。しかし、皺のついた肌色のズボンを履いており、利き手は右手だった。また、身長は予想通り「前後」の範囲に収まっている。
「今度は三つ」
 池藤は列を加えると最後の一人の情報を足した。聞くべきことはあらかた聞き終えただろう。容疑者四人の証言に役立つものなど何もなかったのだが。
「どうですか、池藤さん? 分かりましたか?」
 池藤の耳元に口を寄せて警察官は尋ねてきた。確かに、こうまで目撃証言と容疑者の容姿とが一致しないのでは、手の付けようもない。
「そうですね。これは


   ***


 原稿は池藤の台詞の途中で途切れており、後には白紙が続くばかりだった。郁太は苦々しい表情を押し殺しながら、心の中では愚痴を連ねていった。
 こんなに短いなら勿体ないと思うほど大した労力は掛かっていないんじゃないか、とか、リアリティは求めないのか、とか、後半があまりに雑になっていないか、とか。しかし、一番気に掛かったのは登場人物のことだった。それだけは郁太の口から自然と溢れ出ていた。
「この池藤向日って本当に俺がモデルなのかよ……」
 どう控え目に見ても、郁太にはこの探偵が自分をモデルにしているとは考えられなかった。丁寧な態度を見せつつも、自分は他よりも優れていると自信を持っている。郁太はそこまで自惚れているつもりはなかった。
「あ、読み終わった?」
 郁太の独り言を聞いた日奈は、それを読了の合図と受け取ったらしい。僅かに申し訳なさそうな様子で郁太の顔を覗き込んでいる。郁太は薄く頷いた。今の日奈の表情は、郁太に対して向けたものではない。作品の行く末を案じてのものだ。郁太はこれ見よがしに大きくため息をついた。その仕草すら日奈には伝わらないのだから、さらにため息をつきたくなる。
「まあ、確かに該当する犯人はいないな」
「でしょ? 不可能犯罪でしょ? だから、郁太に犯人を見付けてほしいの」
 日奈の言葉に、郁太は呆れを越え怒りをも飛び越え一周して呆れ返った。日奈は日本語が通じないのだろうか。犯人がいないと言った矢先に犯人を見付けろと言う。無茶もいいところだ。それに、これは不可能犯罪とは違う。ミステリを書きたいのならもう少し勉強するべきだ。
 だが、前提として犯人を見付けろと言付かっている以上は、郁太はそれに従うしかない。この程度の労力で過去のトラウマを回避出来るのなら安いものだ。
「ちょっと待ってろ。今考えるから」
 郁太はそう言うと顎に手を当てて考え始めた。犯人当てだというから読んでいる最中から推理はしていたが、証言との食い違いが多く、また日奈の文章も進歩がなくちぐはぐで結局まとまらなかった。日奈が隣で少し嬉しそうにしているのが横目に映るが、それは無視した。日奈の意図はまるで読めない。読みたくもない。
 郁太は池藤が作中でしたように、脳内に六行六列の表を描いた。目撃情報と容疑者の容姿を当て嵌めていく。こうしてみると、日奈の作品は描写が都合良く曖昧になっており、推理を組む側にしてみると中々愉快だった。何せ、既に犯人は一人に絞られているのだから。
 しかし、郁太が思考をそこで止めなかったのは、単に日奈に仕返しがしたかったからだ。描写の曖昧さを突いていき、多少の無理を通せば日奈に一発くれてやることも出来そうだ。
「よし」
 郁太は推理と話の構成とを頭で組み終えると、日奈の方に向き直った。相変わらず能天気な表情を浮かべている。郁太はこれから押す相手が暖簾でないことを願い、切り出した。

≪解答編≫

「日奈、暗い推理と明るい推理、どっちを聞きたい?」
 郁太の問いに、日奈は答えようとして口を噤んだ。前回のことを覚えているのだろう。だが、日奈がどう答えようとも結果は変わらない。悩んだ時点で、郁太の思う壺だ。
「うーん、それだったら明るい推理を聞きたいけど、でも郁太意地悪だからなあ」
 日奈の回答に、郁太は幾ばくかの満足感を得た。やはり、これくらいの些細なことでも、日奈を出し抜けるのは気持ちが良い。郁太は機嫌が上向きのまま、推理を開始した。
「じゃあ日奈の望み通り、暗い推理から話すぞ。ただ、そもそもの要求が無茶なんだから物証はない。まずは、前提からだ。容疑者の誰かが嘘をついているというのは、アンフェアになるから考えない。この短さだと反証も無理そうだしな」
 自分がしてやられたのだと気付いた日奈は始めはぶすっとしていたが、郁太の推理が始まると直ぐに真剣な表情に変わった。瞳は爛々と輝き真っ直ぐに郁太を見詰めている。
「それでだ、容疑者の誰も嘘をついていない――つまり本文での描写がそのまま容疑者の容姿である――とすると、当然目撃証言と一致する人物はいなくなる」
 日奈は何度も頷き、それから首を傾げている。ここが一致しないからこそ、日奈は作品を完成させられなかったのだ。日奈とてよく分かっているだろうし時間を掛けて考えもしただろう。必要なのは、発想の転換だ。
「そこで俺が考えたのは、嘘をついたのは容疑者ではなく、目撃者だったらどうかってことだ」
 郁太がそう告げると、日奈は目を細めますます首を傾けた。郁太の言わんとしていることが理解出来ないのだろう。郁太自身これで伝わるとは思っていない。
「嘘というのは語弊があるな。正確には、目撃証言として描写されているものが実際の光景と違っている、とでも言えばいいかな」
 郁太はより分かりやすいように言葉を変えたつもりだったが、やはり日奈の頭に浮かんだ疑問符は解消されなかった。確かに、こんなまどろっこしい言い方をするよりも、すぱっと種を明かした方がいいだろう。そして、そここそが郁太にとって重要な点でもあるのだ。
「目撃証言としてあげられていたのはカメラだ。デジカメ二台と一眼レフが一台。わざわざデジカメと区別して書いているのだから、この一眼レフカメラはフィルム式だろう。もしも警察官と池藤が目撃証言として見ていたものがネガフィルムだとしたらどうだ? 色は反転し、上下左右も反転する」
 郁太は言葉を区切り、日奈の反応を窺った。日奈は目を大きく見開いている。その可能性は考え付かなかったのだろう。その顔には、ただ驚きと感心が現れている。郁太は小さく息を吐いてから続きを説明した。
「ここで問題になるのは、じゃあ何個目の証言がネガによるものだったのかだ。他の二つはデジカメだから、確認は画面の中だし、反転も何もしていない。どの証言が反転したものなのかによって、大きく異なってくる」
 日奈は先程から一切間抜けな表情はとらなくなっている。一つの道筋が示されて、自分の中で再び論理を組み直しているのだろう。それに加えて郁太の話も聞かなければならないのだから、余裕など無いのも当たり前だ。
「証言が一眼レフによるものだと俺が思ったのは、二つ目だ。それだけ『うつる』の漢字が違っていたし、まあそうでないと推理が成り立たないからな。では、二つ目には何が写されていたか」
 郁太は視線で日奈を促した。たまには日奈を会話に参加させてやらないと、一人芝居をしているようで虚しい。それに、いつまでも喋り続けるのも疲れる。
「えっと、紺色のズボン、拳銃を構えた左手、覆面、青緑とオレンジのボーダージャケット、身長一七〇センチメートル前後」
 急に話を振られた日奈だったが、流石に自分で書いた作品だけに指を折り数を数えながらすらすらと答えた。
「そう、その五点だ。その中で反転により影響を受けないものを除くと、残るのは紺色のズボンと左手だけになる」
 郁太が言い切ると、そこで日奈はすかさず手を挙げた。そこで質問が来ることは郁太も予想していた範疇ではある。少しでも話に飛躍があれば直ぐに突いてくる。こういうところでは、日奈は驚くほどにしっかりしている。
「待って。どうして上着は除外されるの? 色も反転するでしょ?」
「ああ、確かにネガの中では色も反転する。反転した色のことは補色っていって、記述によって多少の差はあるが、青緑の補色はオレンジなんだよ。当然オレンジの補色は青緑だ。そして、犯人が着ていたジャケットの柄はボーダー。たとえ色と向きが反転しても、この上着の描写は『青緑とオレンジのボーダー』で変わらない」
 日奈は唖然として言葉を失っていた。一つ呼吸を置き、郁太は続けた。
「紺色のズボンと左利き、この二つを反転させると、紺色の補色である肌色のズボンと右利きになる。これを踏まえてもう一度容疑者の目撃証言を組み直すと、黒髪、青緑とオレンジのボーダー柄のジャケット、右利き、腰部に膨らみ、そして肌色のズボンだ」
 郁太が五つの特徴を挙げると、日奈は視線を中空にさ迷わせた。脳内で各々の容疑者の容姿と照らし合わせているのだろう。やがて、ぱっと目を見開いた。日奈も気付いたのだろう。それに該当する人物が一人だけいることに。
「それって――」
「そう。四人目の容疑者、足鳥がこの強盗事件の犯人だ」
 郁太はきっぱりと断言すると口を噤んだ。さて日奈がどういう反応をするかだ。推理としてはまあ悪いものではない。一応筋は通っているはずだ。ただ、この推理には大きな欠陥がある。日奈がそれに気付いているかどうかが、郁太の企ての成否の鍵になる。
 少しの間日奈も郁太も黙ったままだった。その沈黙が郁太には異様に長く感じられ、額には嫌な汗が浮かび始めていた。
「す、」
 俄に日奈が口を開いたので、郁太は次に日奈の口から出てくる言葉を待った。「す」の後に続く言葉は、果たして郁太の望むものだろうか。
「すっごーい! 郁太本当にすごいね! まさか解いてくれるなんて信じられない!」
 日奈は大きな声で喜び、大きな動きで郁太を賞賛した。その顔には輝きが満ち満ちており、何度もすごいと口にしている。というか、基本的にすごいとしか言っていない。
 しかし、日奈がこれだけ喜んでいるということは、郁太の推理に十二分に満足しているということであり、すなわちそれは郁太にとっても嬉しい限りなのだ。これで、存分に日奈を突き落とすことが出来るのだから。
「郁太すごいなー。完璧な推理だもんね」
「そうだな。――そう思うだろ?」
 郁太は喜びはしゃぐ日奈に、口調を変えて告げた。それはまさにテンプレートのままに。
 日奈もその字面が醸す不穏な空気を察したのか、それまでの体全体で表現したような喜びは次第に潜んでいった。代わりに浮かんできたのは、怪訝な顔だった。
「え? 郁太、どういうこと?」
 日奈の問いに郁太は素っ気なく返した。
「今の推理で辻褄が合ってたと思うか?」
 日奈は少し思案した後、こくりと頷いた。初めから郁太は日奈を騙すつもりでそれらしく推理したのだから、仕方のないことではあるだろう。だが、郁太は冷静な態度で――内心ではほくそ笑みながら――自分の推理の欠陥を指摘した。
「あのな、もしも実際にそういう事件が起こったとして、その様子を想像してみろよ。探偵と警察が集まって、目撃証言としてネガフィルムを見ている。そして、ネガに写ったものをそのままの色として捉えて、容疑者の容姿と合わないだなんだと頭を悩ませているんだ。小説の中の叙述トリックだからそれらしくはなっているが、実際にそんなことやってたら、馬鹿も間抜けも通り越してC級コメディだ」
 郁太がそう言うと、日奈は小さく吹き出した。想像して自分でもその可笑しさに気付いたらしい。そんな日奈に追い討ちをかけるように、郁太はさらにもう一つ、致命的ともいえる欠陥にメスを入れた。
「それとな、フィルムに写る像は、表と裏を間違えでもしない限り左右逆転しないんだよ」
 笑いを抑えようとしていた日奈の表情は、郁太の言葉でさあっと凍った。それもそうだ。もしも左右の反転がなければ、犯人像は左利きのままになり、それに当てはまる容疑者はいなくなる。また振り出しに戻ってしまうのだから。
「でも、そしたら犯人、いなくなっちゃう……」
 急に声に覇気がなくなった日奈は、見るからに落ち込んでいた。今にも泣き出しそうな日奈を目前にして、郁太は手を差し伸べようとしている自分をぐっと押し止めた。日奈に一泡吹かせてやろうと決めたのは郁太だ。今さらその決意を揺らがすことは出来ない。そうしてしまったら、それこそ郁太は自分の負けを認め、日奈の手の上で踊り続けるしかなくなる。
「そこで明るい推理の出番だ。聞きたいか?」
 郁太は平静を何とか保ち、日奈に尋ねた。予想した通りではあるが、日奈は勢いよく顔を上げると、食い気味に何度も頷いた。
「暗い推理では、前提として容疑者の容姿は事件の前後で変わっていないとした。けど、明るい推理では池藤が推理してたように、上着と腰部の膨らみは事件の前後で変わっている可能性があることを前提とする。それから、暗い推理での欠陥を補う意味もこめて、二つ目の目撃証言は陽画によるものとする。色は反転していないし、上下左右が反転することもない」
 郁太は最初に話した推理と異にする部分を列挙した。日奈は僅かに俯き眉に皺を寄せながら、郁太の言葉に少し遅れて頷く。自分の中にある情報をきちんと新しいものに適用させているのだろう。
 郁太が日奈の整理が済むのを待っていると、顔を上げた日奈はおもむろに口を開いた。
「――ええと、ということは、推理材料の五つの目撃情報は、黒髪、左利き、紺色のズボン、それから疑わしい青緑とオレンジのジャケットに腰部の膨らみになるってことね?」
「ああ。その通りだ」
 郁太は予想以上に日奈が早く情報をまとめたので少し驚いた。これだけ短いのに思い入れがあるということは、やはりそれなりに考えていたのだろうか。
 日奈は相変わらずに首を傾げて考えているようだ。与えられた条件に合致する人物がいないかどうかを。ただ、この段階になっても気付かないということは、日奈は完全に見落としているのだろう。
 やがて、日奈はおずおずと郁太の顔色を窺うように視線を合わせてきた。その表情に、全てが解ったような明晰さはない。
「ねえ、郁太。新しい目撃情報を加味しても、犯人に当たる人がいないんだけど……」
 日奈が解けていないと分かった時点でそういう台詞が出てくることは予想済みだ。実際、上着と腰部が誰にでも当てはまると考えても、容疑者の四人は全員が三つしか目撃情報を満たさない。郁太は態とらしくため息をつくと、少し小馬鹿にするように日奈に返した。
「何言ってんだ。ちゃんと一人いるだろ。五つの目撃情報に合致する人物が」
「えー? だって、四人とも犯人にはなり得ないよ」
 郁太は人差し指を日奈の眼前に立てた。急に指が迫ってきた日奈は、驚いて後ろに一歩下がった。そのタイミングで、郁太はさらりと真実を告げた。
「犯人は警察官だよ」
「――え?」
 先程とは違う意味の「え」という言葉が日奈の口から漏れた。次いで、また違う意味の「え」が日奈の口から発せられた。
「えー! どうして? 警察官の描写なんてほとんどなかったじゃない。なのに何で犯人だなんて言えるの?」
「描写が少ないからといって、無かったわけじゃない。そこから必要な情報を抽出していけば、十分に犯人の容姿になり得る」
 郁太は日奈が疑問をいくつか口にするのを流した。どうせ郁太が最後まで話してしまえばそれに答えることになるのだ。日奈に主導権を握らせる必要もない。
「まず最初にだ。池藤は警察官のことを『交番のお巡りさん』と形容している。まあ、実際にそれはその通りなんだが、そんないかにもなお巡りさんが髪を染めていると思うか?」
 日奈はふるふると首を振る。大いに主観は混じっているが、これで黒い髪についてはクリアだ。郁太は続けた。
「それで、この交番のお巡りさん――つまり地域警察官――が着る制服ってのは、活動服なんだ。この季節だと着るのは合服で、その色は上下ともに紺色になる」
 日奈は感心の眼差しを郁太に向けた。確かに、普通は警察官の制服のことなんて知らないだろう。郁太だって興味を持ち調べるまでは、毎日のように交番の前を通っているにも関わらず、季節によって制服が変わっていることすら知らなかった。それはさておき、とりあえずこれでズボンもクリアした。
「上着については合致しないが、ここだけは池藤の推測通り、どこかで着替えたのだとすれば問題はない」
 上着についてもクリア。残る条件は二つだ。
「腰部の膨らみ、これは想像に容易い。――拳銃のホルスターだ」
 これで後は一つだけ。これまで口を挟むことすら出来なかった日奈はようやく、郁太の様子を窺うように尋ねてきた。
「最後の左利きっていうのは? そんな描写あった?」
 日奈の問いに、郁太はしっかりと頷いた。若干描写不足な感は否めないが、判断出来なくはない。
「最初の方に、警察官が右手で手帳を取り出す描写があった。ということは、手帳は右手に持っていたと考えられる。次に、警察官がペンで手帳に書き込む場面があった。右手で持った手帳に何かを書き込むには、ペンは左手で持たなければならない。つまり、この警察官は左利きだ」
 日奈が思わず息を飲むのを郁太は見て取った。これで目撃証言については全てクリアした。あとは最後の一押しだ。
「これで警察官に五つの目撃情報が当てはまることは分かったな。しかも、この警察官は自分のアリバイについても話している。宝石店から交番までの距離は分からないが、時間的に不可能であるとは断言出来ない。全ての条件から、警察官は犯人たり得る人物だ」
 郁太は言い切ると、唾を飲み込んだ。勢い込んで推理を捲し立てたので、少し喉が疲れた。証拠はもちろんあるはずもないが、他に不自然なところはないだろう。少なくとも日奈が満足する程度には論理も成り立っているはずだ。郁太はそう思って日奈の様子を窺った。日奈はもう一度推理を検証しているのか、真剣な表情で考え込んでいる。
 やがて、きちんと理解し納得したのか、一つ頷くと顔を上げた。そこに浮かぶのは満面の笑み。郁太は少し構えた。
「やっぱすごいよ、郁太は! 私、警察官のことなんて全然考えに入れてなかった。いやー、流石名探偵は目の付け所が違うね」
 案の定、日奈は急に拍手喝采して大きな声で郁太を誉めちぎった。人から誉めそやされるのは悪いことではないし、今回は短い上にパズル的な要素が強く、日奈の文章の稚拙さに辟易することも少なかった。楽しめたかと問われれば首肯せざるを得ない。しかし、そもそもの原因が日奈の不知と不出来であることを考えると、素直には喜べない。
 なので、郁太は曖昧に相槌を打った。よくよく考えれば、日奈に一泡吹かせようとしていたのに、当の本人は全然気にしている様子もない。一瞬だけの痛手を食らわせただけで、後々まで鈍く響く一打を受けたのは郁太の方だった。結局、郁太はまたしてもしてやられたのだった。
「くそ……」
 郁太は舌打ちをして悔しさを日奈にぶつけようとしたが、日奈は郁太が悪足掻きをしたことにすら気付いた風はなく、ただ嬉しそうにしている。
「本当に毎度毎度ありがとうね。郁太の推理が聞けるなら、次も謎解きものにしようかなあ」
 次があることはもう既に諦めている。郁太は頭に手をやると呻くように声を発した。誰かにこの苦難を分けてやりたい。
「あ、ああ。でも、頼むからちゃんと完成したやつを持って来てくれ」
 まるで聞こえていないように、日奈は郁太に背を向けるとスキップをして去ろうとしている。その場に残された郁太には、もはや疲れしか残っていなかった。去り際、日奈の独り言が郁太の耳にも届いた。
「探偵役の池藤向日もすごく郁太に合ってたし」
「え――」
 どこが、と反論しようと手を伸ばしかけた郁太だったが、もうそんな気力も残ってはいなかった。

なき犯人(将倫)

テーマ「反転」が与えられた時点で、写真のネガフィルムのことが頭に浮かび、それをネタにしたミステリにすることを決めました。そして、ミステリにするならと、二年間の沈黙を破り日奈と郁太を登場させることにしました。
この作品以降、「なき」はシリーズものとして頻繁に部誌に姿を見せることになります。

なき犯人(将倫)

淵戸日奈が持ってきた原稿を読む天谷郁太。それは犯人のいない未完成のミステリだった。郁太は犯人のいないミステリで犯人の究明に挑む。なきシリーズ第二作。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-14

Copyrighted
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