Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-3a>>
本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。本作品に登場するキャラクターの性格や行動は実際のゲームと多少異なる場合があります。
aパート:ステラ視点 bパート:ルーナ視点
<<一日目-3a>> 本のある場所
カラン
寂しげな音が背を叩く。
結局何ひとつ固形物を腹に入れることなく、カフェの扉を外へくぐる羽目になってしまった。
もう一人の客が注文していた料理は実に美味しそうだったから、次に来店したときは逃さず注文しようと心に決める。
建物と木々に阻まれて太陽そのものは見えないが漏れて届く光もいくぶん弱まっているようだし、今からもう一件食事処に入るわけにもいかないだろう。散策に読書にと随分時間を費やしてしまった。
はやく二つ目の用事を済ませなければ。
公園内ではないけれど、公園に生える樹木が傘を差す。そんなカフェ前の道路を西へ向かう。
次の目的地は鉄道の高架を潜り抜けた先にある、小学校と中学校と高校と大学が全部くっついた学校。
姉は高校卒業後大学には進学しなかったから良いとして、私はまだ14歳。面倒だが教育を受ける義務の残る年齢だ。出来る事ならばなるべく早く『集団生活』からは抜け出したいと思う。
先日まで過ごした学校にいた奴らはいかにも特異点であった私を相手に成立する“みんな”という集合を形成することで、そろそろ見え始めた現実への不安を忘れようとしていた。
露骨に暴力を振るわれたりした訳ではない。自制が効いた訳でもなく、振るおうとすれば手痛い反撃に遭うことを知っていたからだろう。
中には幼少の頃良く連れ立って遊んでいた者も混ざっていたが、成長するとは過去を忘れる事なのだと諦めた。
黒板の前に立つ私が転校して行くと告げた時の教室内の空気は、たぶん一生忘れない。
ちらちらとお互いの様子をうかがいつつ浮かべた『次はだれにしようか』いや『なるのだろうか』という不安を隠さない表情。
教室内の空気を悲しさからと勘違いしたのだろう担任が、明るく「みんなはここで友達と一緒にいるけれど、ステラさんはひとりで次の学校へ行くんです!この学校の楽しい思い出を持って行ってもらうために、最後まで元気に送り出しましょうね!」と言うまでの、あの動揺と焦燥と猜疑を混ぜて凍らせた雰囲気。
つくづく唾棄すべきものだった。
年を越え春を迎えるまでの辛抱とこの学校への転入は受け入れたが、高校への進学は考えてはいない。
きっと姉には反対されるだろうが。
新たな集団生活の場所にたどりつく。
校門は幅広いが正門ではなさそうだ。
目の前にはグラウンド、そして左に校舎、前に校舎、右にも校舎。
全てが揃っているから、と言うことを差し引いてもかなり大型の教育施設なのではなかろうか。
転入時の資料で写真は見ていたものの――そして先ほど電車の中から遠目に見ていたものの――実際に視界に入れてみるとこの広大さには衝撃を受けざるを得なかった。
ここまで大きいと幼稚舎が併設されていない事がいっそ不思議だ。
グラウンドの様子からしてまだ放課後にはなっていない。
挨拶を済ませる相手は在席しているだろうか。無駄足になるのは勘弁だが――
校門横にあった案内図で中等部の校舎を確認する。
――まぁ、今更連絡手段を探すのも面倒だ。いなければ待てば良いだろう。
思い直して、賑やかなグラウンドを傍目に歩き始めた。
幸いに訪ねる先――これから数カ月世話になる学級担任は手が空いていた。
手短に挨拶を済ませるとふたつみつの書類を渡し、代わりにロッカーの鍵と学生証を受け取る。
校内の案内を丁重にお断りするとその教師もまた安心したように椅子に腰を落としこんだ。
確かに、この広さの校内を案内するとなればそれなりの手間がかかりそうだ。
用件が済んだところで早々に退席の意を示し、中等部校舎を後にする。
「この学校は変わり者が多いから」
会話の途中、口を滑らせるように言った教師の言葉が妙に耳に残った。
さて。
今日すべきことは全て終えた。後は家へと戻るだけ。
だがまだ太陽は空に残っている。
先ほど案内板を確認した時目にした「図書館」という施設が果たしてどのような物であるかの確認をしなければ。
そう考えて、入ってきた校門とは逆へ足を向ける。
どの校舎も比較的最近建てられたような新しさで、しかし建築様式はバラバラだ。
近代的な物もあればゴシック建築の様なデザインの物もある。
校内にまばらに生える木々はどこかから運ばれて来たものか、建築物に囲まれてみな少しばかり肩身が狭そうにしていた。
しばらく歩いて行くと授業が終わったからか、それとも十分に離れたからか、先ほどまで遠くに聞こえていたグラウンドの声が聞こえなくなった。
背には少しばかりの低木が育つ中庭があり、向き直ればそこには目的の物が立っている。
どこかロマネスク様式の教会のを思わせる、恐らくイミテーションだとは思うが煉瓦造りの図書館。
出入り口の両脇には侍従のように常緑樹が立ち、逆光も相まって威厳を加えようとしているかのようだ。
両開きの扉が出迎える出入り口と、それよりも大きなアーチがずらりと並ぶ二階の窓。左右に尖った頭の塔でもあればまるっきり教会のようだ。
ギイィ
重い扉を押し開き、図書館の中に入るとそこには広い空間があった。玄関ホールだろうか。
八角形平面が縦に伸び、半球ドームが上から覆う形は装飾のデザインも相まって礼拝堂のように見えなくもない。
しかし、正面に目を向けるとそこには礼拝堂と表現するには不釣り合いな物が置かれている。
タッチパネル式の情報端末。
外装も内装も時代を逆行したような場所にいかにも近代的な設備がある様はどうしようもなく場違いで、周囲から浮いて見える。少し残念だが、恐らくこの規模の図書館の蔵書を管理、閲覧する利便性を優先したのだろう。
左右に目をやれば、大きく開かれたアーチ型の向こう側に大量の本が並んでいる。
ふぅ。
少し大きめに空気を吸い込む。
やはり本のある空間は良い。まだ日が落ちる時間でもないし、しばらくどのような本があるか見て回ろう。
特に探し求める本がある訳でもないからと、あえて情報端末を使わず探索することにした。
――さすがに大きな街にある大きな図書館だけあって、蔵書する本の種類も数もかなり多かった。
この図書館は上から見ると中央に正方形の中庭を容れた四角形の格好をしているらしく、両側を本棚に挟まれた通路を進み、直角に左へ四回曲がるともとの玄関ホールへと戻って来るようになっている。二階部分は玄関ホールのある辺を除く三辺に通路があり、角に当たる部分に一階へと降りる階段が設けられている。一階も二階も通路と本棚のつくりは良く似ていた。
しかし、空気が違う。
一階に多かったのは児童書・文芸書・雑誌・辞書、そして文字によらない――音声や動画のデータ。
二階に多かったのは理学・法学など様々な専門書と歴史書・写真集や画集・洋書。
どちらも多種多様な種類が所狭しと詰め込まれていたけれど、どことなく二階の本の方が人嫌いの空気を発していた。言うなれば近寄りがたい、もしくは忌避される空気。
二階の通路をのんびりと歩きつつ両側の本棚を物色していると、ときおり強く感じる場所がある。
唐突に、昔私を担任していた教師の言葉を思い出した。
人があなたを嫌うのではなくって、あなたが人を嫌っているの―――だったか。
しかしこれは明らかに違う。
私は本を読むのが好きだが、それにも拘らず一部の本は私の足を遠ざけようとしていた。
記憶を飲み込みすぎた本か、はたまたエリューション化した本でも混ざっているのか。
――いや。
この街にはアーク本部があり、この学校にも多くのアークの構成員がいる。そんな場所にエリューションが残ったまま見過ごされているはずもないだろう。
思い直し、最奥まで来た通路を引き返す。
窓の外に見える空にも赤みが増している。もうそろそろお暇しなければなるまい。
ふと、階段を下りる時誰かに呼ばれた気がして振り返る。
そういえば一階には人の姿もちらほら見えたが二階では誰にも会わなかったと、一番奥の壁まで見通せる通路を見ながら思った。
Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-3a>>
原作⇒『Baroque Night-eclipse』 http://bne.chocolop.net/top/
ゆっくりと、ゲームを進めつつ書き進めて行きたいと思います。