夏の幻影

 骨の輪郭、季節は夏。道路に横たわる、蝉の、あの、生命をまっとうしたもののかがやきみたいなものを、ぼくは見た。蜃気楼は、いつも、きみをまきこんで、揺れる。罪の意識?そういうものはときどき、愛にまぎれて、やってくるよ。誰かの言葉が絶対ではないのに、ふいに、支配されたようにその言葉に縛られて、呼吸を忘れる瞬間というのが、人間にはあって、それが、すべてのように植えつけられる。氷がとけて薄まったアイスコーヒーを飲みながら、窓越しの、ぼんやりとたよりなく佇むだけのビルの群れを眺めている。きみを傷つけたと思った、そのとき、時間は巻き戻せないのだと、さも当然のことを漠然と考えているときの心持ちに、少し似ている。

夏の幻影

夏の幻影

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-10

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND