夏の幻影
骨の輪郭、季節は夏。道路に横たわる、蝉の、あの、生命をまっとうしたもののかがやきみたいなものを、ぼくは見た。蜃気楼は、いつも、きみをまきこんで、揺れる。罪の意識?そういうものはときどき、愛にまぎれて、やってくるよ。誰かの言葉が絶対ではないのに、ふいに、支配されたようにその言葉に縛られて、呼吸を忘れる瞬間というのが、人間にはあって、それが、すべてのように植えつけられる。氷がとけて薄まったアイスコーヒーを飲みながら、窓越しの、ぼんやりとたよりなく佇むだけのビルの群れを眺めている。きみを傷つけたと思った、そのとき、時間は巻き戻せないのだと、さも当然のことを漠然と考えているときの心持ちに、少し似ている。
夏の幻影