絹枝の魔性総集編

草也

絹枝の魔性 総集編


-絹枝の供述-

 一九四三年の盛夏の茨城である。
 老舗の醤油製造会社の若女将の衣絵が外出中に、夫と義父母の三人が惨殺された。そして多額の現金と貴金属の全てが奪われた。戦時下とはいえ、古色蒼然の小さな町では、かってない程の大事件である。
 ただ一人助かって遺産の全てを相続する嫁は、浮気で出かけていたという、どこまでも尾ひれが連なる風聞が瞬く間に広まった。遂には、町議会議長でもある大株主の一族の長老が、郎党の疑念と確執を決済した。衣絵は取締役常務を非常勤相談役に退き、経営には参加しないというものだ。長老が新設の会長に就任した。絹枝はこの男の女になるのを既に密約していた。

 実際は衣絵は現場にいたのだ。通報を受けて駆けつけた警察官に納戸で発見された。破れた黒い下穿きだけの豊潤な裸体を縛り上げられ、目隠しをされ猿ぐつわを噛まされた、異様な姿態であった。
性交の痕跡が明らかに認められた。陰毛が剃りあげられ膣には大量の精液が残っていた。そして首には手で絞められた痕があった。夫婦の寝室の派手な布団の周囲には、フィルムが抜き取られたカメラ、看護婦の制服、性具、様々な交合の写真が散乱していた。布団は濡れていた。 夫の死体は押し入れで、裸で発見された。別の寝室で発見された舅と姑の死体も裸で、性交の痕跡があった。枕元に写真と性具が転がっていた。警察は、医師の判断や衣絵の供述と声涙の懇願を、申告通りに認めた。

 それにしても絹枝の供述は衝撃的だった。
 「夫と一一時頃から性交を始めた。看護服を着て写真を見たり性具も使った。夫が縛った。目隠しも猿ぐつわも夫がした。下穿きを破ったのも夫だ。首を絞めたのも。射精されて悶絶していた。
 気がついたら夫のとは違う男根が挿入されていた。巨根だった。そのうちに、また朦朧としてきて。ところどころしか記憶にない。何度も射精されたような気がする。次の男にも何度も射精された。やはり巨根で男根に大きなイボが幾つもあった。二人とも若い男だと思うが、すべて闇の中の出来事で、男根としか接していない。乳房を握った手は硬くてごつごつしていた。二人ともにんにくのきつい臭いがした。朝鮮人のような気がする。二人目の男が、最後に男根を舐めさせるために猿ぐつわを外したので、し終わったら殺されるかも知れないと思い、助けてくれたらあなたの女になると、咄嗟の命乞いをした。そして、二人の男に、女陰と肛門に同時に挿入されて気絶した。納戸に引きずられていた時はかすかに白んでいたと思う。
 見つけてくれた従業員に教えられるまで、三人が殺されているのは知らなかった。夫は看護婦姿の写真を何枚か撮った。男達が撮ったかどうかはわからない。毛を剃っていたのは夫だ。布団が濡れていたのは私の小便だ。法悦の時の性癖だ。写真も性具も夫の楽しみで慣らされた。毎晩のように交わっていた。子供がいなかったせいかそれほど睦まじかった。姑ともうまくいっていた。離婚などためにする噂だ。いろいろ言う人もいるらしいが商売上の妬みだと思う」と、絹枝は自らの恥も包み隠さずに、全容を申し立てたのである。土蔵の隅の現像室で、数台のカメラと膨大な写真や性具、セーラー服も発見された。老舗の名家の二組の夫婦の寝間の秘密が、余すことなく散乱した。
 警察は、絹枝の悲惨な暴行と故人の特異な性癖、この家の秘密の一切を秘匿するために、妻は親戚への外泊で不在だったとしたのである。夫と舅は頚椎を折られて絶命し、姑は窒息死だった。顔に濡れたタオルが放置されていた。警察は、犯人は二人組であり、中肉中背で二十歳前後、少なくとも一人は余程の怪力の持ち主で、強盗が目的であり強姦は成り行きの駄賃か、と予断した。怨恨か流しの朝鮮人説も有力だ。 その頃、町に近い隣県の鉱山で徴用朝鮮人の騒動や脱走が相次いでいたのである。女だけが殺されずに残った疑問を漏らす者もいたが、黙殺された。閨房と強姦の恥辱もかなぐり捨てた絹枝の詳細な供述は、信憑性があると判断されたのだ。絹枝と町の実権者の町議会議長の関係は誰も知らない。


-殺意-

 四九日法要が済むと、衣絵は追われるように、しかし町を離れるといそいそと、県境の温泉宿に入り、待ちわびていた新会長の長老と爛れた情欲に溺れながら、速やかな復帰を確約させた。
 全てを為し終えて、岩手の地主の実家に戻った女は、後妻に逃げられてからは独り身の病床の父親と兄に短い挨拶を済ますと、兄嫁が差配する生家を辞した。すでに隣村に兄が借家を手配している。故人の供養をし、しばらく辛酸を癒すという口実だった。
 村の荒れ寺には、地主の尽力でつい最近に住職についたばかりの僧がいた。 絹枝とこの怪僧、二人は果てるとも知らない、凄まじい性交をした。絶頂の最中に首を絞め合うのだ。絹枝の、尋常ではない性癖である。教えたのは樽川だ。


-墓石の下-

 一九三一年。戦争に向かう高揚と不安が錯綜する、北国のある町の盛夏である。
 陰惨なその事件は、盆踊りの広場から女を呼び寄せ、耳許で囁いた男の一言で幕を切った。浴衣の放埒な若い身体に言い寄ったのは、夜店の河童の面をつけた頑健な若者だ。やがて、盆踊りを抜け出た、放埒な尻を振る二十がらみの二人の女と、愚連隊仲間の若い二人の男が、鎮守の森の月明かりの石段を上って行く。やや遅れて、少し年下の青年が後をつけているのを女達は知らない。
 たちまちに、神社の縁の端と端で、二組の男女が代わる代わる性交した。脅迫の上の強姦だったのか、情欲の合意だったのか。何れにしても三人目のその青年は境内の月明かりに佇ずんで、その光景の一切を目撃していた。饗宴を満喫した樽川が、「お前はしないのか。地主の娘を犯したくないか」と、極貧の小作人の息子をそそのかした。ただ黙し続ける青年を残して、不良の兄貴分の二人は石段を降りた。神社の縁に、乱れた身体をふしだらに投げ出した二人の女と青年が黄金色の月明かりに残された。

 絹枝は地主の娘であり、もう一人は後に教師になる女で校長の娘だ。宮実という。二人とも県の師範学校の学生である。帰省した絹枝の家で、飽いた女同士の身体をまさぐり合いながら、怠惰で長い夏休みを過ごしていた。


-樽川の殺人-

 神社の縁の片端で絹枝は浴衣を脱ぎ払い、樽川も真裸になった。二人は抱き合って互いの口を吸う。女陰と男根をまさぐる。「本当に見てたの?」「見た。お前の継母と一緒に」「あの女と何をしてたの?」「べっちょだ。お前の父親と結婚する前から、あれは俺の女だ。あの女が言ってたぞ。お前たちは女同士でやってるんだってな?」「女なんか好きじゃないわ。あの女がやりたがるんだもの」「男とはやったのか。初めてやったのはいつだ?」「異人の、あの男よ」「良かったか?」「とっても。気が遠くなったわ」「大きかったか?」「凄く。太かった」「これと、どっちがいい?」「この国の男は異人には敵わないわよ。何もかもよ。勇ましいことを言ってるだけ」「でも、嵌めてみなければ判らないわ。べっちょで測ってあげる」「その前に前戯をいっぱいして。濡れたら、入れて」

 縁の向こう端では、樽川の兄弟分の不良が、青いスカートを脱ぎ捨てた、やはり豊満な宮実の全裸に背後からせわしなく挿入している。甲高く喘ぎながら、嵌まった男根を撫で回して、宮実がこちらの二人を見ている。
 「見せつけけけてやろう」「そうね」「あいつは、ただ嵌めるだけの、とんま野郎だ。味も素っ気もない。俺は違う」「あの女も、嵌めたがりだけのバカ女よ」
 黙ったままで指図する男に従って、青いスカートを脱ぎ払うと、黒い下穿きがはち切れる女の肉を窮屈そうに隠しているばかりだ。男がそれをむしり取った。女は命じられるままに、勃起した男根に口でコンドームを被せてから横たわり、真裸の股を広げた。たちまち、すっかり濡れた女陰が男根を根本まで呑み込んだ。激しく吸いあって、息が苦しくなった唇を離して、宮実が初めて口を開いた。「さっき、突然に絹枝に言われたんだわ」「あの事を見られたから、あの二人にやらせるしかないって。あなたも見てたの?」「俺は見てない。あの男から聞いただけだ」「あなた達は私達を選ぶのをじゃんけんで決めたわね」「俺が勝った」「何で私に決めたの?」「初めて見た時から、お前とやりたかった」「どこで見たの?」「街の百貨店だ。そんな事より、あの二人を見てみろ」「絹枝が舐め始めたわ」
 「やっぱり、生でやるぞ」「私もその方がいいわ」「いいのか」「今日は安全日よ」男がコンドームを取り払って再び侵入させた。「どうだ?」「やっぱり、こっちがいいわ。形がはっきりわかるもの」「俺のはどうだ?」「大きい。私のは?」「凄く濡れてる。いつからだ?」「盆踊りで会った時からよ」「俺とやりたかったのか?」「すぐに嵌められると思ってたわ。あなた。見て。絹枝が口でコンドームを被せてるわ」「お前がやったのを見て真似たんだろ」「きっとそうだわ。あの女は何でも私を真似るのよ」男の動きが激しくなった。「射精したいの?」「嵌めっぱなしで何発も出してやる」放出の後も、法悦を漂う腟を男根が間断なく蹂躙し続ける。「凄いわ。絹枝とも、こんなこと、やるの?」「悪いか」「私もあの男に嵌められるの?」「やりたくないのか」「これがいい。ずうっとこのままでいたい」「俺が好きか?」「とっても」「あいつとどっちがいい?」「あなたに決まってるわ」「あの男は俺の手下だ。みんな、俺の思いのままだ。俺はこの国の者じゃない」「何処なの?」「半島だ。俺の女になるか?」「なるわ」「これは誰のだ?」「あなたのよ」二人は明日の約束を交わした。「あなた。また、いく。これで、3発目よ」

 朦朧と心を放った宮実の芳醇な乳房を樽川が愛撫した。膨れた紫の大きな乳首を噛む。女の紅潮した桃色の肌が汗にまみれて、月明かりに艶めいている。一陣の風が吹き渡った後に、宮実が口を開いた。「あの女より肥ってるでしょ?」「お前の方がいい」「絹枝のはどうだった?射精してきたんでしょ?気持ち良かった?何発出したの?」「一回だ」「未だ、やらないの?嵌めてもいいわよ」「あいつ、生でやらなかったか?」「そうよ」「出したんだろ?」「いっぱい」「コンドームを渡したろ?」「だって、生は嫌だって言っても。気持ちいいからって。言うこと聞かないんだもの」「良かったか?俺とやりたくなかったのか?」「やりたかったわ」「あなたの方が好きなんだもの」「だったら、何で?」「だって。無理矢理に犯されたんだもの。仕方なかったんだわ」「あんな奴が出した汚いのには嵌めない」
 宮実が男の股間を探りながら、「小便したいの。すればみんな流れるわ。小便するの、見てていいわよ」
 神社の裏手で一部始終を見届けても、男は挿入しない。「あなたのを舐めさせて」女がしゃぶりついた。「そうよ。あの男のより凄いわ。あの女の臭いがするわ」「ほんとは先にお前と嵌めたかった」「本当なのね?」「じゃんけんで負けたから仕方なかった」「嬉しい」「明日、二人っきりなら、填めてやる」
 「私もやりたい。口に出して。みんな呑みたい」樽川が女の口に射精した。宮実が寸分残らず飲み干した。

 「金玉見せて。舐めておっきくしてあげるから」絹枝が樽川の男根を含んだ。「随分おっきくなるのね。驚いた。あの異人と同じくらいだわ。硬い」
 女が口でコンドームを被せた。射精の最中に、翌日に二人きりで会う約束をした。

 樽川が離れて、今まで宮実と交わっていた男と入れ替わった。絹枝は、その女の臭いのする巨根を吸いながら、次の日にも身体を与える秘密の睦言を交わした。

 翌日の真昼の神社の縁で、真裸の男の下で、真裸の絹枝は、予想外の長い性戯に溺れている。男は絹枝の女陰を解放せずに、三度目の射精に励んでいる。 「俺のと樽川のと、どっちがいい?」「これよ」「生がいいだろ?」「剥れてる形がはっきりわかるもの。熱さも。生がいいに決まってるわ。妊娠しない日だもの」「あいつはバカだ。律儀にコンドームなんかして」「夕べ、宮実にも生でやったの?」「始めは被せてたけど。あの女が生がいいって。妊娠しない日だから大丈夫だって」「何発出したの?」「三発」「あの女の中はどうだった?」「イボイボがいっぱいあって。締まりが良かった」「憎らしい。私のは?」「やっぱりイボイボが絡み付いてる。吸いつかれてるみたいだ」「あの女のと、どっちがいい?」「これだ」「嬉しい。もっとふぐりをぶつけて」「何回も出して欲しいか?」「何発もやりたい。いっぱい出して」「この後にあいつともやるのか」「やらないわ。あなたとだけよ」「樽川とはもうやらないか?」「絶対に嵌めないわ」「俺の女になるか」「して」「こ
れは誰のだ」「あなたのに決まってるでしょ」。女は朦朧とする意識の中で、もし樽川が来てしまったら、昨夜のように三人で交合すればいいのだなどと、淫乱な身勝手を決め込んで、何度めかの淫埒の境地を漂い始めた。
 「太いあなたの金玉が最高よ。また、いきそう。出して。いっぱい奥に出して」
 時間より早く来て、ある瞬間から二人の交合を見おろしていた樽川が、日頃から持ち歩いているナイフを取り出した。虚ろな目でそのただならぬ殺気を捉えた女が、射精を終えて腹の上でだらしなく弛緩している男を、やにわにはね飛ばした。咄嗟に、「犯されてたのよ」「あなた。助けて」と叫び泣きわめいた。樽川がナイフを構えた。
 「殺して」女の叫声が破裂した。濡れてふやけた男根を茫然と晒している不良仲間の男に、樽川が飛びかかり、やにわにナイフを突き刺した。一撃で刺殺してしまったのである。
 裸の女が茫然とする樽川の腰にしがみついた。「嘘をつかれて呼び出されたの。さんざん抵抗したんだけど、無理矢理犯されたの。許して。でも、私はあなたの女よ。夕べ約束したでしょ。このべっちょはあなたのものよ」
 二人は神社の古い墓石の下に、爛れた絆を確かめるようにして、男を埋めたのだ。

 それから三日間、狂気のあの瞬間を、もっと激しい情念で忘却させるが如くに、二人は獣の有様で交わり続けた。
 殺人という途方もない契機で縁を結んでしまった二人は、その業の扱いに煩悶しているのだ。
 その時も、劣情をあからさまにして、巨根を突き上げていた樽川が、何かの調子に女の首を絞めた。怪訝な面持ちの女が、「殺すの?口封じ?いいわよ。殺したいなら、殺していいわよ。生きてたって大して面白くもないんだわ」さらに強く絞める。たちまち、男根に膣の肉の全てが絡み付いた。女陰に似た半開きの唇が、享楽の戯れ言を繰り出す。男は、初めて感じる悦楽に浸浸りりながら、さらに強く首を絞めた。もはや、性の戯れなのか、殺意の兆しなのかさえ判然としないのだ。
 やがて、股がった絹枝も、命じられるままに男の首を絞め始めた。「もっと?殺したい位に強く絞めるの?こう?もっと?」「こう?」男も女の首を締め上げている。女が喘ぎ続ける。 「私のが、変わったの?」「締め付けてるの?」「初めてなの?」「あなたのも凄いわ。どんどん変わってる。太くなってる。硬くなってる」
 男も女も互いの首を限界まで絞め合いながら、激しく痙攣して男根に絡み付く女陰の奥深くに、決して結ばれはしない絶望を放出したのである。
 そして、二人が互いの秘密を明かすことは、決してなかった。自己本意の権化の女は、最後の嘘を真実だと思い込むのが性癖なのだ。吐いた嘘は直に忘れて、真実が何かさえ知ろうとしないのだ。
 樽川は殺した男との腐れ縁を決して漏らしはしない。男は樽川の母や姉ともずいぶん前から性交していたのだ。ふしだらな絹枝を取り合う、突発的な事件ではなかった。殺意はじわじわと発酵していたのである。

 
-謀略-

 樽川が殺した男、アキラの周辺がにわかに騒がしくなった。
その頃、この地方で重大な事件が立て続けに発生していた。
 半月前の夜半に、北の国を縦断する国営鉄道のレールがこの地域で破壊され、夜行列車が脱線した。死傷者は一〇〇名に上った。その二日後には、国をあげて戦争を遂行する体制翼参会の幹部で、この地方から選出されている国会議員の某が自宅で焼死して、殺人と断定された。戦争に反対する勢力の仕業と予断した官権の大々的な捜査が始まった。社会主義政党、労働組合、共産主義者の周辺に捜査の手が及んでいた。半島の民族の関与も噂されている。愚連隊グループも探索されていた。
 樽川も聴取を受けたが明白なアリバイがあった。だが、アキラにはなかった。簡単な事情聴取に応じたアキラは言を左右して、ある捜査員から疑念を抱かれていた。二つの事件の時間帯とも、アキラは地主の若い後妻と密会していたのである。真相を隠したままでごまかしきれると、安易に考えていた。そして、再び、あの刑事がアキラの周辺を捜査し始めたのである。その情報が樽川を震撼させた。
 樽川は絹枝とその継母から、それぞれ相応の金をせびって遁走した。
 しかし、その後もアキラの失跡が警察の本格的な捜査の対象になることはなかった。不品行の極まる男の失踪は身内ですら深刻に案じはしなかった。アキラの家は貧しく、後家の母親は熟れた情欲を満たしながら、ある男の僅かな援助を受けていた。妹は遥かに離れた街の場末で、身体で稼いでいた。


-絹枝の殺意-

 二度目の殺人の十日前、店が休みの広い台所に絹枝は一人だった。
 勝手口から流れてくる托鉢の読経に、何故か胸がざわめいた。布施を渡しながら旅の僧に声をかけると、編み笠を上げたその顔はあの樽川だった。一〇年ぶりの再会である。男が衣絵の所在を調べて訪ねてきたと言う。
 この刹那、長い間、女の胎中に鬱血していた禁忌の情欲に一気に火が点いた。辺りに全く人の気配はない。
衣絵は無言で男にしゃぶりついた。さらに何かを言おうとする男の唇を強奪して、懐かしい匂いに犯されながら舌で舌をまさぐる。唇をべろで舐める。噛む。唾をのむ。この一瞬で二人は熔解し一つの情炎にたぎった。女が猛る獣を娑婆に引き出そうとする。男が充血した女陰を獰猛に催促する。その時、使用人の下女の声がした。

 二日後に、男が忍んでいる町外れの空き寺に、衣絵が密かに入り込んだ。廃屋も同然の本堂で、キスももどかしく、女が下半身を脱ぎ払う。
 「そうよ。夕べもやったわよ。仕方ないでしょ、夫婦なんだもの」舌打ちする男の耳を舐めながら、「あの時みたいにして」「あなたの小便で全部流して。あなたのべっちょに作り直して」女が狂おしくせがむ。「小便が出たくなるまでしてあげる」女が男根をしゃぶり尽くす。やがて、背中を見せて太股を大きく開き、突き出した豊かな尻を割った。すっかり崩れた女陰に男が挿入した。二つの性器は瞬く間に深々と結束した。その深奥に男が大量に排尿した。「気持ちいい。これをしたかったの。私もしたくなった。出すわよ」二人の小便が混じりあって、結合の隙間から流れ落ちた。
 塵芥のむしろの上に座り、牡の欲望を剥き出しにした巨根を突き上げる男に股がった女が、鋼鉄の勃起を根元まで呑み込みながら、口を吸い合う。互いに首を絞め合い没我の境地を漂う。男の男根を膣の深奥で締め上げ、乳房を千切れるほどに絞られて、女は余りの淫楽に口内が干上がる。女陰に似た半開きの紅い唇から途切れることなく喘ぐ。余りにも甲高い嬌声を封じるために、女が自らハンカチを押し込んだ。
 長い髪が夜叉に変貌した顔に貼り付いている。喜悦の表情で、男の首をさらに強く絞めた。男も女の首を限界まで絞めながら、痙攣して男根に絡み付き、悶絶する膣に劣情の丈を放出した。
 「時間がないから」女が金を渡しながら、「二日後に県境の温泉宿にいて。目に立つから雲水姿はやめてね」と、言った。


-禁忌の性戯-

 その二日後。温泉宿の部屋に入るや、絹枝は樽川の股間に泣き堕ちた。しゃくりあげて、詫びを繰り返しながら、股間をまさぐる。
 男に促されて裸になった女の陰毛が、すっかり消えていた。赤黒い女陰が剥き出しだ。「丸見えでしょ。夫に剃られたの」身体中のアザを男が問いただすと、「キスマークよ。夕べ夫がつけたの」夫婦の生々しい性交の記録だ。沸騰した嫉妬が樽川の神経を無惨に掻きむしった。絹枝が反転すると尻一面に、尻の合わせ目にまでも、夫の存在が刻印されているのだった。
 「明日は泊まるんだから浮気封じだって」三日月眉の眉間に縦皺を深く刻んだ女が唇を舐めながら、「さんざん抗ったのよ。あなたに会うんだもの」睫毛は濡れ、「でも、あの人が無理矢理するんだもの。縛られたの。セーラー服を着せられて。時間も知らなくなるほど舐められて。嵌められて。気が遠くなってしまったの」朦朧とした大きな瞳をそむけながら、「仕方ないでしょ。夫婦なんだもの」と、熱い息を吐いた。
 樽川の茫然とした視線の先に、女の真っ白い肌が汗を弾いて艶めいている。熟成しきった豊潤な乳房の頂点に、大きな赤黒い乳首が尖っている。二段に張って痙攣する腹と丸い臍。その下に台形に広がる膨大な毛根の剃り痕。地肌は紫だ。剥き出しの桃色の膨れた陰核。丸裸の裂けた紫の陰唇。乳房やふしだらに広げた豊かな太ももの内側にも、付け根にも、おびただしいアザが浮かんでいるのだ。
 絹枝は萎えた男根をまさぐりながら、しっとり湿りを浮かせる張った小鼻をひくひくさせて、追い討ちをかける様に、「あの人が駅まで送ってきて、駅の便所でも嵌められたのよ。嫌だって言ったのに。まるで強姦されたみたいに。まだ精液が入ってるわ」
 「一晩泊まるのにも大騒ぎ。もう、うんざりだわ。老舗の若女将なんていわれても、女中に毛の生えたようなものだし。夜はさんざんにおもちゃにされて」「もう我慢できない。あの時みたいにすっかり自由になりたい」
 男好きのする顔を曇らせながら、「写真まで持たされたのよ。御守りだって。何枚も。性具も。やりたくなったら写真を見てこれでやれって。あんなの焼いてしまうわ」「写真、見たいの?その手提げに入ってるわ」
 「それは看護婦の制服とセーラー服よ。忌々しいからどこかで焼いてしまおうと思って持ってきたの」と、女が追い討ちをかける。男が女の手提げからニ〇枚ほどの写真を取り出して、食い入る。「それは、私のに夫が嵌めてるの。夫が撮ったの。自分の指で剥らしてる、って?だって。逆らうと、ひどく怒るんだもの。やりたくてやってるんじゃないわ」 「私のが?濡れてる、って?随分に意地悪な事を言うのね。馴じんでしまった夫婦の身体だもの、仕方ないでしょ。女の身体は気持ちとは別に反応する時もあるのよ」「それは顔に精液をかけられて。しゃぶらされて」「それは、無理矢理に私の穴に入れてるの。見えないけど前にはバイブを嵌められてるの」「こんな事を毎日させられるのよ。堪らないわ」
 「その写真?」「看護婦の格好をした私が風呂場で縄で縛られて。破れた下穿きのままで小便してるの。じゃあじゃあ出てるてしょ。やっぱり小便出してる夫のにかけてるの」
 「何で看護婦の格好をしてるんだって?」「それ、どうしても聞きたい?ドキドキするから、あなたのを弄りながらならら、話してもいいわ」男が許すと、女は勃起を貪りながら、禁断の痴戯の模様を告白し始めた。 「半年ぐらい前に撮った写真よ。私が看護婦の格好して。皇室の病院の看護婦になるのよ」「そうよ。皇族しか行かない病院の。四〇位のベテランの看護婦になるの。夫は二十歳位の皇太子よ」「そう、皇太子よ。そういう小説があるんだって。夫が真似しようって」「皇太子が陛下と女官がしてるの見てしまったの。皇太子はその女官が好きで。先にしてたの。だから、衝撃で立たなくなってしまったのよ。国の一大事でしょ。何としても直さなきゃならないの」「看護婦は天皇が立たなくなった時も直したの。すごい女なのよ」「看護婦が皇太子のに聴診器当てるのよ」「あなたもやりたくなったの?
天皇になりたいの?」「いいわ。あなたとなら私もやりたい」
 絹枝は裸の上に看護婦の制服を羽織り、帽子を被って、聴診器を持ち、「あなたは天皇よ。なりたくなかったのに天皇にさせられて、急に立たなくなったのよ」「看護婦の私がこうやって。聴診器で。ここの、そうよ、金玉の脈を計るのよ。ふぐりも。それから長さと太さを図るの」「それをカルテに書くのよ。詳しく。毛の本数まで。どう?」
 「あなたの?大きいわ。本当の天皇のはあなたの半分ぐらいよ」「それから診察を始めるの。やってるいろんな写真を天皇に見せるのよ。そっちの、そう、それよ。色々あるでしょ。どれを見たら大きくなるか、診察するのよ」「この写真?みんな夫が集めたの。無理矢理、私に見せるのよ」
 「その写真がいいの?」「三〇位の太った看護婦。白人だわ。四つん這いで、丸出しの尻を持ち上げて。後ろからのし掛かった、真っ黒い大きな犬としているのよ。犬の金たまが入ってて。金髪の陰毛だわ。女の口が人間のをくわえてるの。射精した瞬間よ」「それは三〇位の芸者が中年の男に股がって嵌めてて、肛門には若い男のが入ってて。その男が別の若い芸者のを舐めてるのよ」
「カラーの写真だわ。凄いのよ。四〇位の女と金玉だけが写ってる写真よ。大写しの、桃色の、肉付きのいい女が、真っ黒い金玉から飛び出る、精液を飲んでるの。手で金玉の根本と、ふぐりを揉んでるのよ。眉間に皺寄せて。目をつぶって。美味しそうに。紅い唇から白い精液を垂らして。鼻にも唇にも精液がついてるの。飲んでるのね。大きい金玉からも精液が飛び出てるの。出した瞬間なのね。紫色のぼってりしたおまんこがぱっくり開いて。金玉の形によ。今までいっぱい嵌めてたんだわ。1時間ぐらい嵌めてたのよ。抜いたばかりなのよ。だから閉まらないのね。そこから汁が、とろっと、流れて。太股までよ。おっぱいがおっきい。乳首もおっきい。色は赤紫よ。おっぱいにキスマークがいっぱいついてる。腹にもいっぱい。おまんこの回りに毛がいっぱい生えてて。モジャモジャ。真っ黒なの。臍まで繋がってるの。その脇に黒子が三つあるわ。そこにもキスマークがついてる。おまんこも舐めたのね」
 「厭らしい写真でしょ?こんなに写真見ても、天皇は立たないのよ」「仕方がないから、今度は看護婦が手で治療するのよ。こうして。ほら。こうよ。あなたにしてるみたいに」「天皇になった気分は、どう?」「ゆっくり撫でて。こんな風に。ふぐりもこんな風に。どう?」
 「天皇のは立ったのか、って?まだ立たないわ」
「あなたの天皇はもうすっかり元気よ。硬くて。ほら、筋が浮いてる。剥れて。亀頭がつやつや」「嵌めたいの?」「中に夫の精子が残ってるだろ、って?そうね。やっぱり清めなきゃあね」「小便で?あの時みたいに?私もやりたい」「風呂でやりたいの?」「そうね。今なら誰もいないかも」「いてもいいの?広くて湯気で見えないの?


 -混浴の女-

 二人は一つしかない大浴場に向かった。混浴だ。案に相違して熟れた女達が三人いた。二人が豊かな身体を洗い流している。主府の言葉だ。
 男は巨根を隠さない。湯船の一人の女がそれを目で追う。二人は広い浴場の一番奥に浸った。女達は湯気でかすみ叫声も遠い。
 「あなた?手拭いを落としたふりして、わざと見せてたでしょ?ゆっくり歩いたりして?憎らしい」女が股間を握りしめてしごきながら、「小便出たくなるまでしてあげる」と、男を立たせて、湯に潜った女が陰茎をくわえた。汗にまみれて、時おり、あの女達に聞かせるごとくの嬌声を洩らしながら、「こんな事はあなたとだけしかしたくない」と、言言いながら女はさんざん戯れる。

 隠れ家の廃寺から絹枝が去ると、女が持ってきた衣服に着替えた樽川は、女の指示通りにある繁華な街に出て、夏の背広に身支度を整えた。散髪も済ますと、背が高く何処か異人の風貌の男は浮わついた女などの目を引くのだ。もはや、流浪する理由の全くない男は、その日のうちに女が指定した温泉宿に向かった。
 関東と東北の狭間の、県境の山あいの大滝から流れ落ちた川沿いに、数件の濁り湯の湯治宿が点在している。硫黄の強烈な臭いが集落を覆い尽くしていた。女が来るまでに時間は充分にある。
 着くなり、一つしかない混浴の大浴場の濃く白濁した湯で汗を流した男は、持ち込んだウィスキーを喉に通した。しかし、女の思惑を推し量ると、何故か、一〇年前のあの忌まわしい記憶が蘇ってきて、鬱々として気の収まる事はない。
 夜半に目を覚まして、ウィスキーの瓶を持って浴場への長い階段を降りた。 脱衣所の篭の一つだけに女物の浴衣が脱ぎ捨ててある。男の猟奇心が火照った。しかし、真夜中の浴場は湯気で曇って静まり返っている。広い湯船に浸かりウィスキーを飲み始めると、湯を流す音がした。その方向に目を探索して、湯気が動いた隙間の意外なほどの近くに、洗い場に座って身体を洗っている女の半身を捉えた。
 豊満な背中と乳房や横顔の半分に見覚えがある。夕方に来た時に目についた三人連れの、とりわけ、男の趣向を惹いた女に違いない。男は、昼前に別れてきた絹枝との、確執にまみれた浅ましい性交を苦々しく反芻する。やがて、訪ねてくるその女は、再び汚濁の混沌の兆しのような気がしてならないのだ。それに比べて、深夜に真裸で二人きりの眼前の女は、新しい獲物で、それに見あう僥倖すらもたらしてくれるかも知れない、などと散々妄想して、ウィスキーを重ねた。
 暫くすると、女の短い叫声と洗い桶が転がる音が、同時にした。艶かしい唸り声が、男を呼び寄せるように尾を引いている

 歩み寄ると、洗い椅子から外れた豊かな尻を木の床に直につけて、足首を押さえている。一瞥で、三〇半ばだろう女の全貌を把握した男が、慎重に獲物に忍び寄る段取りを、再び自らに言い聞かせて長い息を吐いた。 転んだのか、多少の心得があると声をかけると、男の全裸を見据えながら女が同意すると同時に、股間を豊満な裸体には小さすぎる手拭いで、申し訳の程度に隠した。しかし、臍のすぐ下まで届く三角の激しい繁茂の底辺を僅かに覆ったばかりで、陰毛の大半や豊潤な乳房や紫の大きな乳輪、その真ん中の膨れたやはり紫の乳首、張りつめた太股などは隠しようもない。陰唇だけが僅かに秘匿された全裸なのだ。
 湯浴みが目当ての混浴なら劣情もすまいが、こうとなれば尋常ではない。
 だが、男は再び勇み足を諌める。膝を折って腰を落として女の足首に手を当て、善意の意思の風に尋ねた。「そんなに痛くはないけど。捻挫したのかしら?」女が頼りなさげに男を見た。視線が股間にぶら下がる巨根に絡み付いた。 「大したことはなさそうだが、しっかり手当てしておかないと後後に障る。柔術をするので心得がある。み療治をしてやろう」と、男が言うと、女が礼を返した。尻も痛いから椅子には座りたくないと言う女に合わせて、床に直に尻をついて、女の足首を取り、脹ら脛にのせてゆっくりと揉み始めた。
 「按摩みたいに局所を揉むのではない。神経は身体全体に網羅しているから全体が衝撃を受けている。神経に安堵を与え機能を復活させる。急いではならない。丹念が肝心、とりわけ、リンパの圧迫がいけない」などと、利いた風な御託を連ねて女の顔を覗くのである。
 女は納得し切って頷く。やがて、男の指がじわじわと足裏に及んで、しっとりと揉みあげると、女が低く呻いた。
 「そう。主府からよ。あなたは?」女が返す。陸軍との取引が早くすんだので久々の骨休めだと、男が短く言葉を濁しながら、男がそろりそろりと躙り寄り、女の足首を太股まで引き上げた。女は抗わない。指の一本一本まで及ぶと女の荒い息づかいが、もはや、男に届く。
 話の続きを女が引き取った。「主府は空襲で大変よ。生き地獄だわ。こころも身体もへとへと。こんな戦争をなんでしてるのか、さっぱり解らないわ。夫は四年前に戦死したのよ。髪結いの亭主でも、死んでしまえば女も脱け殻だわ。美容院を畳んで疎開しようにも縁者があるわけでなし。実家も主府で、焼夷弾の直撃で丸焼け。母親も妹も焼け死んだ。父親は早くに病死していて。誰にも頼れない。ままよと、開き直って生きているんだわ。同業の二人と湯治に来たの。贅沢禁止で、お店も閑古鳥でさっぱりだし。皆目、明日の判らない時勢だもの。生き残ったこの身体が一つ切りでしょ?。せいぜい養生しないと。あなたは食事付きでしょ?」「自炊は安上がり
だから半月はいるわ。おいくつ?若いのね。何もかもご立派だし。結婚されてないの?仕事に?ますます頼もしいわ。志が大事よね。私なんかもう乳母の桜。誰も見向いてなんかくれない大年増だわ。美容院なんて女の園で、男っ気なしなんだもの」
 最も大事なリンパへの動脈などと言いながら、いつの間にか男の狡猾な指は女の太股を揉んでいる。そして、女の足裏は、ずいぶん前から勃起した男根に微かに触れているのである。時折、女が指を動かしながら久方ぶりのたぎる感触に耽溺しているのだ。
 あられもない姿態は、いつの間にか、手拭いもよじれて、女陰の半分を曝している。
 「こんな揉み療治って初めてだわ」続けて、紀子だと、女が名を告げた。男も名乗った。
 いよいよリンパの直の治療だからと、男に促されるままに、女は仰臥して、股間を改めて手拭いで覆った。そこに、男が自分の手拭いを重ね、重ねて療治を装った。我に帰ったのか、豊かな乳房を女が初めて両手で覆う。
 「あなた?時間は大丈夫なの?そうなの。ありがたいわ。私も昼間に、過ぎるほど寝たし。連れの二人も、この時間は絶対に起きないから、ここに来ることもないし」と、督促を重ねる風情なのだ。 
 男が痛めた足の太股の付け根を、これが最も大切なリンパだと言いながら、丹念に揉み始めた。やがて、盛り上がった女陰の縁にまで指を這わせる。繁茂する陰毛の森の端が男の指に触れる。
 女が自分の手の甲を噛んだ。片手でリンパを揉み続けながら、ウィスキーを飲む。両方のリンパをもっとしっかり揉む必要があるからと言って、足を開くように催促するのに応えて、女が股を大きく広げた。
 その太股の間に男が尻を移すと、眼前に熟した肉の塊が乱れて息づいている。両手で両のリンパを揉み続ける。
 最後の止めを焦ってはならないと言い聞かせて、男はウィスキーを一気に含んだ。女は何も言わずに、無防備に股を広げたままだ。再び両手で両のリンパを揉み続ける。 女が乳房を覆っていた両の手を静かに動かし始めた。男が女陰の両端からじわじわと攻めあげる。女が立て続けに呻く。揉み上げながら、遂に両手で女陰を覆った。
 「ここで両方のリンパが繋がっている。女の最も大切なところだ。男なら陰茎だ。だから子供が産めるのだ」などと講釈して、盛り上がった肉をねっとり
揉み続けるのである。
 女は何も言わずに、乳首を指で転がし始めた。女陰に似た厚い唇が半開きだ。
 膨らんだ陰核を手拭いの上から指でなぶる。女が痙攣した。「そこも凝ってるの?」と、震える声で、その手に女が手を被せる。「これが下半身のリンパの頂点。最も鋭敏なところ。男には亀頭に当たり手で触ってもならない。本来の治癒は口でするものだ」と、言う男の言葉に「喉がカラカラだわ。あなた、お酒飲んでるんでしょ?私にも頂戴な?」と言い、半身を起こして、直立に勃起して裏側を見せている男根を盗み見ながら、瓶からそのまま飲み、「おいしい。上等なウィスキーね。今頃はなかなか手に入らないわ」と、溢れたのか、わざと溢したのか、ウィスキーを乳房に塗りたくる仕草を見せるのであった。

 男がウィスキーを含むと女もせがんだ。音を立てて喉を通して朦朧と女が言った。「熱いわ」「ウィスキーが溢れたみたい。ひどく熱い」「何処が?」「女の私に言わせるの?ひどい揉み療治師ね。こんなにしてしまって」「だから、何処が熱い?」「だったら、もっとウィスキーを飲ませて。口でよ」顔をよじった女に男が口移しでウィスキーを飲ませた。女が舌を絡ませようとする間もなく唇を離してしまう。
 「若いのに相当な人ね。悪党」男が乳房を握って揉む。耳を舐める。女の嬌声が浴場に響いた。
 「もうしてるも同然だわ。私に何を言わせたいの?。悪い人ね」「これがあなたの流儀なのね?焦らせて。苛めて。なぶって。こんなの初めてよ」「もう壊れちゃう」「もっと言わせたいの?」「言うわ。何もかも熱いの」「壊れちゃったの。溶けてるの」「お願いよ」
 再び仰臥した真裸の女陰に男がゆっくりと人差し指を差し込む。濡れそぼっている。密が溢れ出た。女が尻を激しく揺すって督促する。ゆっくりと動かす。さらに奥に進める。女の肉壁が指を捕らえた。絡み付いた。
 「駄目」「もう入れて」女が喘いだ。「堪らないの」「したいの」「お願いよ」と、女の語尾を嬌声に変えさせて遂に挿入した。女がけたたましく喘ぐ。

 挿入しながら女の戯れ言が続く。「するのは五年ぶりだわ。凄い。こんなの初めてよ。私の、緩んでない?絞まり具合はどう?」「夕方にここであなたが喋っていたおじいさんの隣に、いたのよ。わからなかった?見たのよ。あなたのこれを。大きくてビックリしたわ。見た瞬間に疼いたの。あの時からしたいと思ったの。おじいさんが、夜中はがらがらだ。時々やってるやつもいるって。やっちゃがりの姉様が待ってっかもしんねえぞって言って。あなたが、だったら今夜必ず来てみようって。聞こえてたのよ。だから待ってたのよ。あなたが出た後に、あのおじいさん、隣の部屋なの。濁ってるから見えないって言って、私のお尻やここまで触ってたのよ。婆さんが必ず昼寝するから昼間にやろうって。しつこいったら。擦りつけたり。油断も隙もありゃしないのよ。萎びたのをつねってやったわ」
 男は驚かない。見初めた女に聞こえるようにわざと言ったのだった。だが、黙した。「だから、さっきもあなただってすぐにわかったわ」「ずうっとあなたとするのを考えていて。濡れちゃって」「ここで待ってる時も弄ってたわ」
「私のをじっと見てたでしょ?膨れてなかった?汁が溢れてなかった?」「転んだ振りをしてわざと桶を転がしたのよ」「知らなかったでしょ?私の方がよっぽど悪い女なんだわ」男が得心した。「三八よ。熟れたのが好きなの?私も若い人が大好き。みんな死んじゃって。バカな戦争してるから」その言葉も気に入った。
 「骨休めなんて嘘なんでしょ?やっぱりね。あの人、恋人なの?」「その人が来るまでいっぱいして頂戴な。もう裏切っちゃったんだもの。構わないでしょ?私、ますます性悪な女だわね。でも、明日も、もう今日ね。今日もしたい。ただそれだけなの。いいでしょ?少し登ると小さな神社があるのよ」
 樽川は絹枝を迎える直前までの二日間、この女と性交していたのであった。


-毒草-

 昼下がりの朽ちた祠の縁で思いの丈に情交した樽川と紀子が、帰りの参道の石段を降りていくと白い蛇が現れた。「吉兆なのよ」と、女が声を弾ませる。そして、直に同宿のあの初老の男と出会った。男は参道をわずかにそれた杉の大木の下で、華麗な花をつけた野草の群生を見ていた。
 「こんなところにこれがあるとは」樽川が尋ねると、「これは大陸由来の不可思議な草なんだ」「薬にも毒にもなる」「これ位のを薬缶で煎じて杯で一杯飲むと万病に効く」「しかし、この一〇倍の量を同じく煎じて飲むと。半日後には死ぬんだそうだ。死体には何の変化も出ないから死因が特定できないという」「かの国では王朝の革命の際にはしばしば用いられたらしい」女が肩をすくめた。男はこの女が僥倖をもたらしたに違いないと、確信した。


-異人の女-

 やがて、「小便したくなったの?いいわ。このままでして。奥にして。あなたの小便で綺麗に洗い流して。あの女達も出て行った。今なら誰も入っていないわ。私もする」と、絹枝は声を憚らない。男が背後から挿入したまま放尿した。同時に女もした。猟奇をさ迷う肉欲はそのまま性交し続けた。
 そして部屋に戻り、再び、長い乱痴気を陶酔した。首を絞められながらせがむ女に射精した。女が濡れた男根にまとわりついて、一滴残らずにしゃぶり尽くす。やがて、長い息を吐き、飢えを満たした絹枝が餓鬼の姿態で横たわっている。ふしだらに広げた豊かな太ももの付け根の、陰毛を剃られて丸裸の紫の裂け目が、抜いたばかりの男根の形を残している。長い挿入で弛緩しきって閉じれないのだ。内側の朱の肉が姿を表している。そこから白濁した精液が、女の夫がつけたキスマークが点在する太股にまで、這い流れている。

 樽川はあの半島人の女の幻影を思い起こしている。
 微塵の未練も残さずに故郷を出奔して、次の年の夏だった。女達からせびり取った金などはとうに使い果たして、貧しい北の国を無頼に放浪し続けていた。
 空腹の身には残酷な程に猛々しい盛夏の昼下がりに、とある辺鄙な村外れの朽ちた農家に忍び込んだ。
 湿気が充満した貧しい屋内に人の気配はまるでない。土間の台所で釜の残り飯を貪り食う。鍋にぶつ切りの肉の煮物を見つけてかぶりつくと、男も幾度か食した犬の肉だ。たちまちの内に、獣の貪欲な血が蘇って駆け巡る。
 その時、叫声が聞こえた気がした。獣の態で全身を耳にすると、再び、紛れもなく女の嬌声だ。原初の欲望に引き寄せられた様に、男の足が囲炉裏を忍び、突き当たった奥の板戸を引いて、呼吸を整えながら淫らな声の巣窟に隙間を作った。
 暗闇からあえぎ声が発火しているのだ。
 目がなれると、裸の女が仰向けになり、両の膝を立て大きく両足を開いている。下に裸の男がいるのだが、男根と足しか見えない。仰向けの男に仰向けの豊満な女が乗っているのだ。黒々と茂る陰毛の淫熟した森に、下から男根が差し込まれ、盛り上がった両の外陰唇がくわえているのだ。それが自身の淫汁で光っている。女の手がその勃起を妖しく撫でていた。女の淫奔に震える汗にまみれた両の乳房を、男の手が鷲掴みしていた。おびただしい嬌声は半島の女に違いないと、樽川に確信させた。
 臍まで延びた濃い陰毛の中に、大きな黒子があった。男根で下から激しく突き上げられるたびに、女の腹の脂肪が揺れた。はち切れんばかりの裸体が無様に痙攣しているのである。
 女の全身が性器なのだった。樽川は座り込んで股間に手を入れ膨れた陰茎を揉んでいた。
 すると、挿入したままの女が朦朧と身体を起こした。そして、板戸の隙間に気付いて樽川の気配を察したのか、身動ぎもしない。樽川もまじまじと女の視線を見た。
 髪を乱した大きな鼻と厚く赤い唇の、三〇がらみの大振りな表情だ。その時にその湿った瞳と樽川の視線が衝突した。乳房が淫らに揺れた。女の太股の奥で肉厚の丘に漆黒の剛毛が繁茂し、縦長の臍に向かって尖っっている。ぼってり盛り上がる桃紫の外陰唇が割れ挿入した異物を包み込んでいる。辺りは染みでた女の粘液で、うっすらと濡れて光っているのだ。
 何も知らない黒い勃起が慣れ親しんだ風情で、女の白い尻を突き上げている。
 唇を噛んでも漏れる嬌声を垂れ流しながら、女は樽川に向けて瞳を膨張させて、奇妙な意思を示し始めた。
女は異物を抜かせると、尻の穴に挿入させたのだ。
 女の指が自らの腹をくねりながら伝って、ゆっくりと女陰に延びてきて陰毛を撫で始めた。もう一方の掌で自らの乳房を蹂躙しながら、女の聞こえない言葉が宙を泳ぐ。初めて見る男に危険な性交を曝している快感が、女の深奥の愉悦をいっそう刺し貫いて、新しい欲望を産み出そうとしているのだ。法悦は今にも沸騰しそうだ。
 しかし、樽川には女のその意図が理解できない。沈黙が続く。さらに、女の指が盛り上がった肉を撫で回しながら陰核にまとわりついた。突起を摘まむ。太股を痙攣させながら、さらに、女の指が陰唇の合わせ目の湿りをなぞる。ついに、女は洞窟に指を潜らせた。濡れた指を戻して女が自らの割れ目をなぞりながら、ある意思を確かに樽川に発信したのである。
 そして、樽川にも女の声が聞こえるのだ。狂った女と邂逅してしまったのか、或いは己が狂ってしまったのか。「さあ。これが女よ。あなたが探し求めていた女体だわ」樽川が充血して存分に勃起した陰茎をしごき始めた。女が頷いた。ひときわ嬌声をあげて尻をくねらせる。ゆっくりと、もはや殺意を抱いたを異物をいたぶっている。
 樽川は驚愕した。確かに女の身振りは、性交している下の男を殺してくれと伝えているのだ。樽川が身振りで改めて確認すると女が深く頷くのである。
 女陰の下に敷いている布を男の顔にかけろと、仕草する。樽川が頷くと、女は下の男に射精を強いて、尻を激しく揺りながら膣で陰茎をしごく。
 たちまち射精が始まったその瞬間に、女がその布を樽川に投げてよこした。その刹那に、駆け寄った樽川が男に股がり、両足で男の両腕を封じて、女の小便で濡れた布を男の顔に被せて押さえ込んだ。股がって挿入して射精を飲み込んだままの女が、男の両足を固める。
 暫くして、呆気なく男の動きは止まった。背の低い痩せた初老の男だった。
抱きつき、樽川の乾いた口を吸った女は半島人だった。
 「殺してくれてありがとう。やっと自由になれる」と、たどたどしく女が言う。女は半島から嫁いだが、騙されたも同然の仕打ちで、家畜のようにこき使われ、あしざまに性交された。奴婢の様だったと女が言った。 女の姿態でその意味を男はくまなく理解した。女の裸には痛ましい痣や傷が点在していた。
 死体を納屋に運び藁を被せて夜つことにしたその時、雷が近付いて蝉時雨が止み、やがて、激しい雨になり、暮色が瞬く間に闇に変じた。
 女が風呂を沸かした。二人はまるで長い時を経た愛人達の様に身体を洗いあって交わった。若い異民族のけたたましい射精を受けながら、女は足を絡めて泣きながら絶叫して、男の舌を吸った。
 貧しい夕餉をかきこんで、交わりながらその時を待つ。そして、夜半には濁流になった近くの川に、完全な隠匿を確信して二人で死体を投げ入れたのであった。
 その後の交合は男が経験した事がない甘美だった。男が解放した奴婢は大陸の女に蘇生していた。鶏を殺して丸ごと調理した。頑健で豊潤な半島人の農婦だ。芳醇な尻を向けて自ら挿入を導きながら股がる。二つの性器は確信して繋がった。異民族であり、忌まわしい同質者同士だからこそ、堪能できる極致なのだ。古代の異民族達も、殺戮を重ねながら、こうして靭帯を創ろうとしたのか。
 「半島の奥深い私の故郷に一緒に行かないか。そこは朝鮮でも中国でも、もちろん日本でもない。満州族の誇りある大地だ。私はあなたによって再び民族の誇りを取り戻すことができた。あなたは私達に似ている。そして私に似ている。一月たてばすべてが解決する。必ず来て」と、女は言い、「身体中にキスマークをつけて約束して」と、哀願した。
 一睡もしないで交わり続けて、次の朝には、夫の不慮の事故死を演じる女を残して、男は再び無為の旅に出た。女は警察の措置が終われば、すぐに財産の一切を処分して半島に帰るのだ。
 一月後に、男が女の元に戻ることはなかった。大陸の戦時下の、海を隔てた北の寒村の陽炎のような出来事だった。
 この数奇な二度目の殺人が男に錯覚をもたらした。残虐な行為が産み落とす歪んだ僥倖が忘れられないのだった。

 その樽川の想念を振り払って、新たな手妻を弄する様に絹枝が囁いた。「あなたとだけしたいの。誰にも、やらせたくない。あなたとだけ。いつでも嵌めたくなったら嵌めたいの」「あなたもせっかく僧侶になったんだもの。本当の住職になって、金貸しをしたりして面白くおかしく暮らしたくない?」樽川は自分が地獄への砂の道を辿る蟻なのではないか、このような迷路にどうして迷い込んでしまったのかと、男根をしゃぶられながら、何故、こんな魔性の女と再会を果たしてしまったのかと、再び想念に耽溺するのであった。


-女教師-

 樽川の脳裏にもう一人の女の記憶がまざまざと蘇って来る。
 絹枝と出会う半月前の、やはり数奇な出来事だった。
 樽川は数日前から、寒村の学校を見おろす山腹の朽ちた山小屋に寝起きしていた。その異様に暑い夏の日は朝早くから学校が騒がしい。やがて、多勢の叫声が木霊しながら山すそを這い上ってくる。下草刈りだ。幼い頃にその経験のある男は察した。
 見つかるのも業腹だと、小屋の近くに格好の窪みを見つけて身を隠した。木漏れ日にうたれてまどろむ内に、甲高いざわめきが近づき、やがて遠のいて行った。小屋に戻ろうと身を起こした矢先に人の気配を感じて、男は大木の裏に潜んだ。
 そこに女が現れた。すると、もんぺと一緒に黒い下穿きを引き下ろして、しゃがみこむ間もなく放尿を始めたのである。激しく繁茂する陰毛の下から黄金色の太い放流がとめどなく続く。やがて、帽子と覆いの手拭いを取った女の弛緩しきった顔に移した男の視線が、息を潜めた。
 あの女だった。一〇年前のあの夏の出来事が鮮やかに甦ってくる。若い日の色情と残酷と、決して明かされてはならない恐怖と悔恨が同居する、固く密閉してきた記憶だ。今では自分でも理解できない激情で、兄弟分の不良を刺殺した樽川は、その町を離れた。しかし、生業にもつかずに無頼な暮らしを続け、流れ着いたある町でやくざ同士の喧嘩に巻き込まれて、傷害致死で七年間服役した。出所して間もなく、場末の酒場の女と同居したが、男の性癖に怯えた女は間もなく姿を消した。やくざには懲りている。生業に就く気もない。樽川は服役中に同房だった男から聞きかじった知識を活用して雲水になり、北の国を放浪した。良く通る読経で布施を受ける。出征や戦死で主が不在の家に上がり込み、互いの情欲を貪り尽くすまで暫く居座る事もある。かつて性交した女を訪ねて金品や身体をせびったりもした。
 男は幾多の女と野放図な交合を重ねてきたが、あの事件の共犯者の絹枝と、特別な構造の性器を持つ眼前のこの女は忘れる筈もない。

 長い放尿を済ませて、豊満な尻を揺らしながら立ち去ろうとする女に、男が声を浴びせた。振り返った特徴のある鼻が男の姿をまじまじと見据えて、「あなたなの?」と、発した乾いた声が男の耳にまざまざと甦った。「ここで何をしてるの?」「今まで何をしてたの?」しかし、女の声は二人の関わりを既に忘却したように、いささかも乱れてはいない。やくざの抗争に巻き込まれて身を隠していると、短く言葉を濁すと、「この時局だもの、根なし草は駄目よ。陛下のために役立たなきゃ。こんなにいい身体をしてるのに」今しがたのふしだらな行為を目撃された衝撃や、あの時の秘密の思い出に浸る風情などは微塵もなく、女は真顔で説諭を始めたのである。 男の粗雑な神経と物言いに獰猛な電気が走った。棲みついた獣が頭をもたげた。「先生になったのか?お前のような女でもなれんだな。一〇年もたつと随分と気の利いた事を言えるもんだ」女の姿態が凍りついて唇までもが硬直した。男の言葉が憤怒している。
 「俺は戦争で死ぬなんて真っ平だ」「だいいち天皇なんて虫が好かない」「あの夜の事を忘れたか?良くもそんな口がきけるもんだな?亭主がいるんだろ?」女がわずかに頷く。「昼間は子供相手に綺麗事ばかりを言って。毎晩、そのやりたがりの股を広げてんだろ?それとも先生らしく少しは上品になったか?」「お前の本性を洗いざらい亭主に教えてやろうか?」女は氷の微笑を浮かべて豊潤な乳房を揺らせた。
 「ご免なさい。私が無調法だったわ。どうすれば許してくれるの?。何でもするから言いつけて」身体をよじる女の肉厚の半開きの唇が濡れて紅い。
 「そうだったな。あの時も何でもするからと許しを請うたな。そうして、お前という女はいたぶられるのが好きだった。虐められると快感を感じるんだったな?」
 男が杉の大木を女に背負わせた。「俺の言う通りに言うんだ」承諾の印に女が紅い舌で唇を舐めた。
 女が男の言葉を復唱するのである。「あんなことを言って本当にすみませんでした、一〇年前にあんなに喜ばせてくれた人なのに」たちまちに、女を自虐の快楽が急襲して口内を干上がらせる。「どんなことをしても謝ります。何でも命令して」女が男の口調の復唱を続ける。「戦争なんかいかなくていいのよ」唇をべろで舐めて、噛み、唾を呑んだ。
 「天皇なんて生き神じゃない。負け戦で兵隊を殺し続けてるだけの只のボンクラよ」「どう?これでいい?」
 女が濡れた瞳を見開いて男の目を捉える。「もう自分で言うから」「あなたの好きなこと、いっぱいするから」「機嫌直して頂戴」「夕方までに集合場所に戻ればいいんだわ。時間はたっぷりあるのよ」長い髪が数本、顔の汗に貼り付いていた。
 「天皇は神じゃないわ。おまんこやったから…」「べっちょ?」「…そう。このべっちょから産まれてきたんだもの。私やあなたと同じだわ」「あの男は皇居で大勢の女官と、毎日、べっちょしてるんだわ」「そんな男のために戦争になんか行っちゃ駄目なのよ」「あなたは死んじゃ駄目なんだわ」
 女は男の性癖を承知し尽くしている。女も同じ色情の持ち主なのだ。「あなたは戦争になんか行かなくていい。死なないで」

 「一〇年前のあの夜のことも、次の日のことも忘れる筈がないわ」「あの夜に絹枝が言ったんだわ。あの事を見られたから、あの二人にやらせるしかないってって」「あなた達は順番をじゃんけんで決めたわね」女はゆっくりともんぺの紐を解き始めた。「あの頃は未だ禁止されてなかったから私は青いスカートだったわ」もんぺがずり落ちた。黒い下穿きが窮屈に女の極秘の肉を隠している。
 「先の男のは小さくて卑しかった。コンドームをする約束だったのに途中で外してしまって。入れたと思ったらすぐに射精して。濡れてもないから痛いだけ。少しも良くなかったのよ」「されながら、あなたのに絹枝が口でコンドーム被せるのを見てたんだわ」「絹枝に射精し終わったばかりのあなたが、これを吸ったわね」
 作業着のボタンを外し、女は片の芳醇な乳房を露にして揺らすのである。紫の大きな乳首を摘まむ。紅潮した桃色の肌が汗に艶めいている。「見て。昔と変わった?」「随分と肥ったでしょ?」「あなたはあんな奴が出した汚いのには嵌めないって、言ったわね」「私が小便したい、みんな流れるからって言って」「小便するの、あなたに見られたわねわ?さっきみたいに。それでもあなたはしなかった」「そして、あなたのを舐めさせたんだわ。あの女の臭いがしたわ」「舐めさせながら、ほんとは先に私の方が良かったって。二人っきりでしたいって、言ったわね?」「そして、口に射精されてみんな飲んだでしょ?」
「次の日に二人っきりでしたわね?あの滝壺で。やっぱり、あなたにひどく怒られた。あの人としたのを責められたんだわ」「あの人と。そうよ。見たこともない桃色の異人の男よ」女が下穿きの中に手を入れた。
 「私の初めての男。あの大きいのが私のここに入って。それをあなたが見ていたのね?」女が視線を流して男の隆起を確かめる。「あの滝壺で、俺のとどっちがいいか、確かめるって」女が下穿きをゆっくり脱ぎ落とすと漆黒の陰毛が現れた。痙攣する腹と縦長の臍。大きな黒子が三つ。
 「あなたがここに指を入れたんだわ。こんな風によ」女がふしだらに足を開いて漆黒をまさぐる。「ここに入ったでしょ?あなたの、それ」「さっきから立ってる、それ。窮屈でしょ?あなたも出して。自慢のを見せて頂戴な?」「そう、それよ。真っ黒の。おっきい…」「そして、異人の桃色のとどっちがいいって。…桃色って私が言うと。懲らしめてやるって。あなたが、したままで中に小便したんでしょ?」「あなた?あの時みたいに虐めて頂戴な」ゆっくり反転して豊かな尻を男に晒す。突き出して片手で撫で回す。「この尻、厭らしいケツだって。あの時みたいにぶって。虐めて」「アザ?いっぱい、あるの?キスマークよ。夕べ、夫がつけたの」「もっと聞きたい?」「結婚して?四年よ」「でも、一年前から不能なの。そう、立たないの。ぐにゃぐにゃで嵌めれない。でも毎晩したがるの」女は快感の趣くままに紅い舌を出して厚い唇を舐めた。
 片足を石にあげて、ふしだらに広げた豊かな太ももの付け根に激しく繁茂する陰毛を撫で回し、指を入れて女陰を裂いて、紅い肉を見せびらかす。片足のくるぶしに、もんぺと黒い下穿きがよじれてへばりついている。上着の作業衣をはだけて乳房をさらけ出している。女は痴態を場末の踊り子に似せて淫らに計算しているのだ。半裸の女が揺らす方やの豊満な乳房と、紫の大きな乳首。女陰から抜いたばかりの方やの指を舐める。指の形を残した割れ目から淫乱な液がこぼれ出ている。
 「あの日と同じ位に虐めて。べっちょの中に小便出して」「それを嵌めて、虐めて」男の視線と女の女陰が粘着する。
 手を引かれるのと同時に、女が男の懐に身を崩した。長い間、互いの口を吸い合った。女が陰茎を捕らえて離さない。男は豊かな乳房を鷲掴みにした。やがて、二つの性器は瞬く間に深々と結束した。背後からの男の火柱を肉欲の深奥で享受し、乳房を思うがままに紊乱されて、あえぎを圧し殺す。男は背後から女の首を絞めながら、悶絶する膣に劣情の丈を放尿した。
 女が男根にまとわりつきしゃぶりつくす。やがて長い息を吐き、飢えを満たした女が横たわった。
 樽川の射精を存分に受けとめた宮実が、「絹枝ともしたいでしょ?居場所を知りたくない?」と、言った。「あの次の日に、私とした後に、絹枝にも嵌めたでしょ?あの神社で」「そうなの。絹枝も否定してたけど」「女の勘よ」


-極限の性戯-

 樽川と再会した時分の衣絵は身体中が餓えていた。荒んでいた。
 嫁いで八年になるのに子供を産めない衣絵は疎まれていた。とりわけ、義母は自ら気に入って進めた遠縁の娘との縁組みも、跡取りを産めないとわかった嫁には、別人に対する様にことさら辛く当たり続けた。
 疎外感が募るばかりの衣絵は、従順な夫に様々な性戯を強いて捌け口を求めた。夫は従うものの、しかし、生来が淡白な男だった。何事も気丈な母親の言いなりで、そもそも絹枝はそれが許せない。嫁の座を守るために、求められるままにか、或いは巧妙なしぐさで誘ったのか、義父や大株主などと性交をしていた。夫には似ていない、首府にいる大学生の義弟とはどうだったのか。衣絵は彼らを取り込む事には成功したが、何れの男達にもあの異様な性癖は隠したから、真から身体が満足する事はなかったのである。
 男達との戯れ事を察しているのか、姑の無体がますます露骨になる。離縁すら画策し始めていた。衣絵の憎しみは殺意を孕んでいったのだ。
 衣絵にとっても樽川は忘れられない男だった。そして、再会した男は性交以上の利用価値を持っていた。
 衣絵は全てを樽川に打ち明けた。そして、二度目の殺害を依頼したのだ。

 暫くして、衣絵はすべての遺産を手に入れた。警察も全く疑っていない。流しの犯行で捜査が進んでいるが、一向に進展はない。衣絵は満足だった。
 あの日、樽川を手引きして忍び込ませて三人を殺させた。そして、自身の暴行を偽装したのだ。
 衣絵は怨念を晴らして復讐を遂げ、欲しいものを全て手に入れた。これ程の喜悦はない。いずれは主要な男達を自身の身体で籠絡し、経営を支配すれば良いのだ。衣絵にとってはいとも容易い事なのだ。だから、樽川なども気に入りの性戯の道具と変わらなかったのである。
 衣絵に罪の意識などは微塵もない。自分を苛んだ者達に下された因果応報ではないか。外地の戦争でも、最近にわかに激しくなった空襲でも、人などは虫けらの如くに死んでいるではないか。衣絵は全く物欲の世界の、自己本位の魔性の住人だったのである。
 しかし、あれ程したくて堪らなかった樽川にこそ、衣絵が考えてもみなかった誤算が棲んでいた。


-絹枝惨殺ー

 月にニ回、県境の温泉宿で身体を与えるのが会長との契約だから仕方ない、と絹枝は言う。やがて大店を手にするための辛抱だとはいえ、その度に噴出する嫉妬が住職の獣欲を刺激し、苛む。
 その日も、戻ったばかりの女を昼日中に組伏せた。「会長の写真も撮ったし面白い話も聞けたし。現像したらすぐにでも脅せるわ。あの店は、もう私たちのものも同然よ。会長の鶴の一声で事業を畳めばすむことなのよ。土地家屋は私の名義だもの。売り払えば生涯遊んで暮らせるわよ。こんな辛気臭い古寺ともお別れできるのよ。誉めて頂戴」「そうよ。会長と私が嵌めてる写真よ。陰茎のイボも私の蛇の刺青もしっかり撮ったわ」「どんな風にやってきたか、詳しく?全部聞きたいの?厭らしいわよ」「会長ったら相変わらず、驚くほど元気なの。旅館のいつもの部屋に入ったら、もう隆起させて。私の写真見てたのね。あの蔵にあったのはみんな会長が持ってるんだもの。
 座るまもなく、やにわにモンペを脱がされ、股間から数珠を引き出すのよ。一個ずつ、ゆっくり。汽車から降りて温泉行きのバスに乗る前に、駅の便所で入れたの。みんな会長の命令よ。お前は可愛い女だ、俺のために刺青まで入れて、今度は俺の逸物の刺青も入れてくれって言ったわ。私が会長分のために刺青入れたって信じてるんだわ。数珠をみんな抜き出してから、小便したい、我慢してたって言ったら、この写真と同じくやれって。風呂場に連れていかれて。仰向きに寝て舐めさせられながら小便させられた」「俺もしたくなったって。小便かけられたわ。身体中に。口にも。前の時なんかおまんこの中にもしたのよ」「風呂から出たら、鞄から派手な下穿きと浴衣を出して、これを着ろって。姑のだって。着たら面白い話を聞かせてやるって」「会長は嵌めながら話をするのが好きなの。私と同じ」。「あなたもそうでしょ。嵌めたくなったの?」。二人は慌ただしく一つになる。
 「そうよ。こんな風に私と嵌めながら、姑とやってるようだって。会長はあの姑とやっていたのよ」
 「結婚して一年後の夏に義弟が事件を起こして。夫と舅がその始末に出かけて留守で。私は兄が事故に遭って見舞いに、二日前から帰省していたの」

―夜に姑から電話があって会長が駆けつけると姑が一人。迎えるなり会長にむしゃぶりついて泣き崩れた。そして性交した。この時、姑は四八。会長は五一。
 姑は全てを性交で解決する依存症だったのだ。「身体が震えて堪らない。落ち着かせて頂戴」嵌めながら話し出す。弟が喧嘩で相手を怪我させた。入院してるが重体だと。会長の射精を受けて豊満な身体を痙攣させながら、「あの子の種はあなたよ。あの子はあなたの子なのよ」と叫んだ。
 二人は親戚だ。会長が一七、姑が一四の時に初めて性交した。姑が婿をとってからもおとなしい舅を尻目に関係は続いた。姑は色情の旺盛な女だったのだ。
 「姑がそんな風だったなんて。人なんて解らないことばかり。私にもまだまだ秘密があるのよ。あなたにも」「あの時、おまんんこの毛を剃ったのは夫だって言ったでしょ。本当は会長がやったのよ」「舅ともやったわよ」「弟と?後で教えてあげる」「それよりあなたよ。夫と舅を殺して、姑を殺す前に縛って嵌めたでしょ。どうだった?命乞いしたの?やらせるから殺さないでって?やっぱりね。射精しながら首を絞めたの?いつもより気持ち良かった?」「私の居場所はあの女から聞いたんでしょ?。その時に嵌めたでしょ?一〇年ぶりに。何発やったの?良かった?」「一〇年前のあの日もあの女と先にやっていたわね?知ってるのよ。金玉があの女の臭いおまんこの臭いがしたもの」その時、絹枝は話している相手があの樽川ではないことに気づいた。源開の憤怒とも喜悦ともつかない顔が凝視しているのだ。その目に妖しく微笑んだ。もはや、この女は狂っていたのかも知れない。そして、源開の首をさらに強く絞めながら、臆面もなく続けた。「あの紡績から戻った尻の大きい娘はどう?三人でやりたくない?私が誘惑してやろうか?紡績は女同士が多いのよ。ああ。気持ちいい。もっと絞めて。もっと」

 
-情交死-

 衣絵は貪婪な法悦に登りつめながら、互いに首を絞め合うのが無上の悦びだった。とりわけ、息が詰まるほどに絞められるのが堪らない。意識が遠のきながらも射精を懇願して淫情の極界に達するのだ。それは樽川との初めての交接の惨劇で身についた陰惨な性癖だった。
 衣絵はその日、その時の何度目かの忘我を漂いながら、樽川のに似た、しかし、明らかに樽川のではない巨根を挿入したまま突然に息耐えたのである。
 貴重な金主には違いないがそれ以上に面倒な女に対して、源開に殺意がなかったと言えるのか。たとえ老舗の不動産が絹枝の名義でも、そして、女との関係を脅されたとはいえ、あの老練な会長に会社の実権を譲らせるなどは不可能だと判断したのか。だから、絹枝はもはや不要な女だったのか。あるいは、瞬間の憤怒か。咄嗟の誤りか。或いは、自ら死を望んだ女が度を越えた戯れ言で男を挑発したのか。男自身にも女の死の意味が分からないのである。
 いずれにしても、源開は躊躇なく最も古い墓を掘り起こして、硬直した衣絵の死体を無造作に放り込んだのだった。それから絹枝の借家に入り込み、秘匿してあった驚く程の大金と宝飾品をすべて奪った。絹枝の父親の地主は、源開に言われるままに失踪として処理したのだった。源開は、既に、絹枝の実家の屋台骨が揺らぐほどの金を恐喝して、高利貸しを始めていた。絹枝が樽川と企んだ思惑をその通りに実行したのは源開だったのである。
 そして、絹枝が喝破した通りに源開の新しい女は既にいた。空襲で焼かれた紡績工場から戻って来た村の若い娘だ。源開が垂涎する豊かな尻の持ち主だ。しばしば墓参する亡父の墓石の前で強引に犯してからは、絹枝の目を盗んで交わっていた。驚くなかれ。この女こそ、あの貴子なのであった。では、源開は?勿論、草也に殺されたあの悪徳僧なのである。
 源開にとっては都合の良い結末の発端となったあの事件について、嘘ハッ百を並べ立てたのは樽川なのか、絹枝だったのか、源開には知る由もない。だからこそ、唯一、真相を知りながら行き方知れずの、今となっては恩人の樽川が決して捕まらないことだけを、この破戒の僧は願った。


-二人目の女-

 あの温泉宿での陰惨な性交の果てに、樽川は絹枝の殺意に合意した。そして、綿密な殺害計画の密議に満足した絹枝が帰った後も、樽川は宿に留まった。犯行の決行まで三日ある。一人で凶行の幻影に怯えて鬱々と過ごすには長すぎるのだ。
 だから、樽川は再び紀子を誘った。絹枝の存在を知っても女は動じない。何も責めない。それどころか、射精したばかりの陰茎をいとおしく舐め廻しながら、この甘美な遊戯に後の二人も交えようと言うのだった。さんざん放蕩を重ねた男にも経験のない淫蕩の申し出だ。修羅の犯行を目前にした暗鬱な男は、いっとき、その爛れた陶酔に溺れた。

 二人目は稀に見る淫乱な女だった。紀子が段取って、男が待つ真夜中の浴場に、後の二人を誘った。
 四人で雑談を始めて間もなく、もはや発情した牝の風情のその女が男にすりより、あげくに隙をみて巧みに股間を握るのであった。 やがて、他の二人が身体を洗い始めて、男とこの女は湯船で二人きりになった。白濁した湯の中で、女が股間に手を伸ばして完璧に握り締めて、今度は離さない。
 「あの女を抱いたんでしょ?誰からも聞いていないけど。聞かなくてもわかるわよ。真夜中に二人きりで裸で揉み療治してて、ない方がおかしいじゃない?だったら、私ともして頂戴な。揉み療治なんて体裁つけなくていいから」「何なら今でもいいのよ。湯気の向こうに隠れたら桃源郷でしょ?」男が合意すると、見せつけるように抱きついた女が熱い息で口を吸い、「見られたっていいじゃない。あの二人は女同士の方が性に合ってるのよ」と、股間をしごきながら濡れた舌を絡める。やがて、欲情ではち切れんばかりの桃色の尻を揺らし、陰毛から湯の粒を滴らせながら洗い場に行き、すぐに淫奔な乳房を震動させながら、漆黒の陰毛を白濁した湯面に泳がせて、赤黒く膨れ上がった秘境も隠さずに戻ると、「奥で揉み療治してもらうからって言ってきたわ。二人はそろそろ出るって」と、言った。
 奥に向かい湯気に包まれた途端に女が抱きついた。未だ洗い場の声が近い。「聞こえてもいいのよ。見えたって構わないわ。その方がかえって興奮するもの。あの二人も私たちがやるのはわかってるわよ。裸で隠れてする揉み療治なんてあるわけないでしょ?したくなくたって出来ちゃうわよ」と、湯面に突き出た肉塊にしゃぶりつき離さない。
 やがて木の床に上がり、仰臥した男に股がり淫靡に尻を回す女に男が言う。「独白法というのがある。最も忌まわしい交合の記憶の全てを話して精神を安楽にさせる。療治でも最高の妙技だ。全身のリンパが活性化する」頷いた女が話し始めた。
 「私が一ニの時よ。八月の暑い午後だったわ。夏休みで友達の家に遊びに行ったんだけど、具合が悪くて帰ったら。母と祖父がしているのを見たの。父が亡くなってから母は身体が疼いて仕方がなかったのよ。だって、毎日してたんだもの。二人の秘密を何度も見たんだもの」「 廊下の奥から声が聞こえたの。納戸からよ。そっと戸を引いたわ」「隙間の暗闇から、やだあぁ、やめてって。母の声よ。祖父の裸の背中が見えたわ」「駄目ぇ、許してぇって。喘ぎ声もするの」「母?その時、三三よ」「祖父は五五だわ」
 「母が昼寝してたら父の夢をみて。堪らなくなったのね。浴衣をはだけて乳を揉んだのよ。祖父がそれを覗いていたのね。祖母は死んでいたし、未だ六十前よ。そうよ。見ながら自分でしてたんだけど。我慢できなくなって。母にのしかかったんだわ。年寄りでも職人だから力が強いの。すっかり押さえ込んで」「実際に見たのはそこら辺からよ」「祖父が母の浴衣をひき剥がして。ううん、下履きは脱がせてないの。のしかかって。立ったのを押しつけたの。母のに。それをを擦って」「祖父の?大きくて真っ黒」「乳を揉んで。乳首をくわえて」「母は、ひどく火照ってきて。濡れてきて。汁がパンツに染みて。気付いた祖父が、お前もやりたいんだろって言ったの。母はやりたくないって。やめてって。でも、祖父が下履きの中にむりやり手を入れて。指入れて。濡れてるからすぐ入って。ゆっくり、かきまわされて。母は声を出してしまったのよ」「それから、下履きを脱がされて。真っ昼間よ。いつの間にか足広げて。尻揺らして。祖父の頭を抱きしめて。足をからめて。締めつけて。尻浮かせて。回すの」「そうよ。今の私みたいによ」「そしてしたのよ。祖父と母がよ。はっきり見えたわ」「私も熱くなって。スカートも下履きも脱いで指を入れたわ」「そうして、また覗いたら」「今度は、汗だらけの母が仰向けになって。膝を立てて大きく両足を開いてたわ」「下に裸の祖父がいるの。勃起と足しか見えない。仰向けの祖父に仰向けの淫熟した母が乗っているの。下から差し込まれているの。祖父のが母の汁でヌルヌル光っていたわ。盛り上がった母のが、祖父のをくわえこんでいたわ。母の手がそれを妖しく撫でている。祖父の手が母のおっぱいをわしずかみにして」「何度も父と母がするのを盗み見てたけどこんなに厭らしいのは初めて」「母は臍まで延びた濃い毛の中に大きな淫乱黒子があるの。今の私とそっくり」「下から激しく突き上げられるたびに、母の三段腹の脂肪が揺れて。痙攣してるの」「間もなくして離れて、母が祖父に股がり口を吸ったわ」「尻を割って勃起を握って、濡れた膣に押し入れたの。尻を回してよ」「前後に振って。性器同士が叩きあう音が聞こえた」「母は声を押し殺してすけべな事を言い続けていたわ」「最後は口に精液を出した。いっぱい。母が旨そうに呑んでた。顔にはねたのも手で拭って舐めた。それから祖父のを吸って。」
 「私は疎ましい性戯を盗み見ながら、座り込んで股間に手を入れて膨れた乳を揉んでいたのよ」
 「母は国民学校の音楽教師だったの。戦争を礼賛して、実権を持つ教頭や派遣将校とも性交を武器に談合したのよ」

 「私がニ一の頃よ。高名な美容師の先生に頼み込んで弟子入りしたの。先生は四八」「一年ぐらいしたら先生のご主人が帰ってきたの。ニ年ぶりに。半島から。軍人よ。朝廷守護隊の幹部だったんだけど、半日ゲリラに銃撃されて。重傷をおって除隊したの」「五ニよ」


-三人目の女、記子-

 三人目の女は日中に二人の女とそれぞれに交わった男を、深夜の浴場で待っていた。
 女は、紀子からは揉み療治の上手い好青年だとしか聞いていない。男は女が紀子の姉弟子で記子という名前だと聞いていた。
 長い年月の立ち仕事で足腰が痛いのだと言う女に揉み療治をしてやろうと、男が筋書き通りに応えた。
 立ち上る湯気の中で手拭い一枚の裸の男と女が欺瞞を承知の療治を始めた。合間に、女が身の上を問わず語りに明かすのである。「同じ師匠についたあの女の姉弟子なの。もう四〇を越えたわ。独り身だけど北の国に産みっぱなしの娘がいるの」と言い声を震わせた。「旅の男に犯されて一七で女児を産んで。両親に預けて家を出て。やがて、何れかに養女に出したと聞いた。実家には帰れる訳もなし。娘の所在はおろか姿すら知らない。苦労して店を持ったが虚ろだわ。男運が悪くて騙されてばかり」混浴だからこの男の裸は男根まで盗み見ていたが、初めて話す若い男に全てをさらけ出すのは、女の心の行方がすでに定まっているからなのかと、男は推量した。男は最初の出会いから、紀子共共この女の容姿も気に入っていた。絹枝などは及ぶものではないのだ。
 話し始めると、何よりも、女に同じ血の匂いを感じた。母親や姉やあの半島の異国の女と同じ、同族の匂いだと樽川は思った。
 だから、男は真剣に丹念に女を揉んだ。しかし、療治に名を仮りた男の指は女の身体の隅々までを犯してしまう。女もその指によって鎮めていた情念が蘇生されて胎動する。
 一通りの療治を終えて、その効果を見たいと男が言う。それに応えて、女が股間に手拭いを頼りなく当てたばかりで、真っ白な豊穣な尻と乳房を悪戯に揺らしながら、しばらく歩き回った。戻ると、「お陰さまでだいぶ良くなったけど。腰の痛みは少し残っているの」と、まなじりを淫らに緩めて催促するのである。男が合理的な方法があると、ある姿態を提案した。湯槽に下半身を浸して温め揉んだ効果を高めて、上半身は木の床にうつ伏せにして、後ろから男が腰の揉み療治をすると言うのだ。
 同意した女が言われるなりにあられもなく芳醇な四肢を崩した。剥き出しの無防備な尻に、男が手を伸ばした。その尻に意味ありげな形のアザがある。
 やがて、気が遠くなるほどの時間を揉まれている筈だと、女は戻り始めた意識で茫洋と思っている。揉まれ始めてから暫くして、隆起した陰茎が陰唇に触れていたのまでは覚えている。亀頭の先端が入っていたのかも知れないとすら思うが、痺れている女陰ではそれすらも判然としない。膣が淫液で溢れて陰唇が溶けているのだ。やがて、意識が遠退いた。余りの悦楽で悶絶してしまったのだろうか。それとも、長い湯でのぼせたのか。そして、身体には妖しげな感覚が残っている。膣には何かが挿入されたような後味もある。肛門にも妖しげな質感が残っているのだ。男が挿入したのか。単なる思い込みなのか。法悦の残滓を漂いながら女は惑うのであった。
 「長いこと揉んで疲れたでしょ?」「まだ一〇分もしてない」嘘だと、女は思いながら、男が嘘をつく必要もないのだと遮った。短い昼寝を長く感じるように、熟睡してしまったのか。では、身体に残っている感覚は何なのか。夢の残り香なのか。夢を見た覚えもないのだが、目覚めた瞬間に消失してしまったのか。
 この若い男もその男根もことごとく夢なのか。これから起こることも夢の続きなのか。女は未知の愉楽の境地を浮遊しているのであった。
 男は尻を揉み続けながら、「上のリンパも揉もうか」と、囁く。男の誘いに女が陽炎のように頷き、湯船の縁に座り直して足を浸した。男がその背後に座り込み、両の太股で豊かな尻を包み込んだ。そうして男の指が耳をなぶり、繁茂した毛が濡れる脇の付け根を、丹念に蹂躙する。男根が女の尻に密着している。
 女が、「おしっこがしたい」と言うと、「体内の変化を知るのには小水の色や臭い、泡の状態、勢いも大切だ。ちゃんと見るように。これは医学の基礎だ」と、呪文の様に男が宣託した。女は思わず、「一緒に見て」と、呟いた。「丁度いい。互いに診断しよう」と、男が何気ない風に続ける。「男の小水が女のリンパにはこの上ない妙薬だ。その上で真の治療すれば、下半身のリンパは完璧に回復する」女はもはや情欲の極致で朦朧と承諾した。二人は洗い場に上がり、女の長い放尿の中途の尿を男が洗い桶に受け止めて、臭いを嗅ぎ舐めた。
その後に、女は男の激しい放尿を陰核で受け止めながら、手のひらですくって舐めた。

 男がウィスキーを飲む。女も飲んだ。「どうだった?」「そんなに悪い兆候はないようだ」「良かったわ。あなたのは、もう夢中で覚えがないの。ご免なさい」
 男はこの女が、あの貴子の実母である事を知る筈もない。

 一人の男と三人の女はそれぞれが一対で交合した後に、遂に四人で交わった。女達は何れも虚しい半生を生きていた。若い男との一時の痴戯に思いのままに耽溺したのである。


-空襲-

 犯行後に、樽川は北の故郷のある場所に、絹枝から渡された大金と宝飾品を隠した。そして、あの湯治宿を引き払った三人の女達が待つ北の国の温泉宿に向かったのである。その車中で、僧侶に変幻したある男と邂逅した。刑務所で長く同房だった男だ。連絡先を渡された。
 その湯治宿に樽川は一人の女の弟を名乗って投宿した。同じ部屋でなに憚ることなく、三人の女と淫情の赴くままの営みに耽る樽川は、あの事件や疎ましい絹枝の面影などはたちまちに薄れていく。人生で初めてする新しい設計に思いを馳せながら、計画を練った。そして、女達が東京に帰るその朝まで交合し続けたのである。
 ある日には、地元の住民もあまり立ち入らないという秘湯に向かった。宿から五キロほど山合いを辿ると滝があり、ほとりに野天の温泉が湧き出ている。 晩夏の汗ばむ真昼である。湯浴みして、真裸のままの四人は手に入れてきた鶏、菓子、ウィスキー、煙草などを贅沢に広げた。鶏を焼いて饗宴をゆったりと満喫する。
 もはや勃起もしないし膣が濡れることもなかった。あの淫乱な女だけが男根を求めて、不全を確かめると、「飲みすぎだわ」と言い残して、湯に浸かって背中を見せている。二人の女が、「こんなことが続いたら極楽ね」などと話すのを樽川はぼんやりと聞いている。自然に溶け込んで柔らかな息をする女の裸体に驚歎するなどは初めてだった。
 こうしたものに寄り添えば全てが赦されるのではないか。この女達となら煉獄を抜け出せるかも知れないと思った。地獄に棲み続ける宿命を自ら定め、男を引きずり込んだ絹枝を樽川が待つ理由は、もはや何一つなかったのである。

 次の日に、樽川は汽車で出会った男を訪ねて、驚嘆する話を持ちかけた。
 その男は源開という四〇半ばの根っからの無頼の徒である。極貧の小作の三男で若い頃から無宿渡世に身を投じて前科を重ねた。最後の刑務所で樽川やあの草也と同房だった。
 出所後はどう細工したのか、北国のある寺のれっきとした僧に収まった。しかし、所詮は寺男に毛が生えた程度の下働きに過ぎない。樽川からもたらされた大金持ちの地主の放埒な、しかも残虐な殺人事件の主犯の娘が求める住職の話は、渡りに船だった。
 樽川は、「すべて絹枝が計画し仕組んだ。三人とも絶対ばれないという植物の毒で女が殺した。俺は偽装の後始末を手伝っただけだ。金は未だ貰っていない。女が大金を隠している。俺はあんな女はもううんざりだ。坊主になんかになる気はさらさらない。新しい金主の女と巡りあったんだ。俺になりかわって、蔑まれ続けた地主を丸裸にしたいとは思わないか?性技が抜群の女を思いのままにしたいとは思わないか?後はお前の判断だ」と、そそのかしたのである。もちろん、これからの潜伏先は一切明かさない。

 

-源開-

 やがて、訪ねてきた僧侶を娘から依頼されていた樽川だと思い込んだ地主は、廃寺の復活を即決した。
 そして、暫くして樽川がいる筈の寺を訪ねて驚愕する絹枝を源開が組伏せ、容易く犯してしまった。
 「俺はお前たちが最も蔑んでいる極貧の小作人の息子だ」と、絹枝の顔に射精しながら高笑いして引導を渡すのだった。そのまま絹枝を軟禁して容赦なく蹂躙する合間に、身体中に奇っ怪な刺青だらけの男は、絹枝の太股に女陰に向かって舌を出す青い蛇の刺青を入れてしまい、「逆らうと身体中を刺青だらけにするぞ」と、脅した。絹枝の思惑はすっかり狂ったが、樽川の数倍も場数を踏んだ悪党の、やはり首を絞めて性交する男に、もはや逆らう術はなかった。 女は源開に恐喝されながら、生来の虚勢を取り戻すために、たちまちに悪賢い共犯者になった。樽川の話を信じた源開の思惑も、女が金を持っていないのを知って多少は狂ったが、二人は狂言して、実家の地主を恐喝して家財が傾きかねない程の金を手に入れ、金貸しを始めたのである。

 「財産分与だわ。私の当然の取り分よ」と、絹枝は嘯いた。女の入れ知恵で、源開は警察に通報する素振りを見せた女の兄嫁を犯した。その露悪な場面を隠れた絹枝が写真に収めたのだ。何故、これほどの悪行を絹枝は重ねたのか。


-絹枝と義兄-

 女学校一年の一六歳の絹枝と一つ年上の中学ニ年の義兄の夏休みの盛夏。うだる昼下がりだ。
 男がうなされた午睡から解放されて居間に行くと、形跡はあるが女はいない。何故か男は身体を固くした。暫く待っても変化はない。
 ある気配を覚えて男は廊下を辿り、奥の両親の寝室の板戸を密やか引いた。
 北窓の淫靡な薄陽のなかで、女の豊淫な尻が割れて剥き出しになっている。足元にスカートと下履きがよじれていた。上半身は黄色の半袖シャツを着けている。ふしだらに腹這いになった女が広げたおびただしい写真を見ているのだ。右の手が下腹部に伸びている。
 自慰をしているのだ。悟った男は沈黙を呑み込みこんで女の秘密の営みに食い入った。やがて、女が嬌声を圧し殺しながら次第に全身を痙攣させ始めた。その時に下半身を脱ぎ払った男が忍び寄り声を掛けた。
 悦楽の最中の女は指を股間に指し込んだまま動かない。男が傍らに取り残された女のスカートと下履きを丸めて、箪笥の上に放り投げた。
 両親の欲情の濃密な液臭が詰まった部屋で、女はゆるゆると上半身を起こして座り、両手で股を覆った。頂点が臍まで延びる隠しきれない陰毛がこぼれた。そして、まだ忘我を漂っているのか陽炎の様な女に、動じた素振りは微塵もない。ばらまかれた様々な淫靡の写真に虚ろに目を落としている。写っているのは男の父と女の母の秘密だ。男も既にその所在を知っていて、時おり忍んで、この淫乱な痴態を見ながら自慰をしていたのであった。
 「何をしてるんだ?」「自慰してたな?」「この写真はどうした?」「俺達も同じ事をやろう」
 「嫌」初めて女の唇が動いた。「この通りに俺の父親もお前の母親も獣だ。俺もお前も獣の子なんだ。同じ事をしたいに決まっている」「嫌」「犯すぞ」「やれるもんならやってみたら」
 咄嗟に思い付いた男が女の眼前で自慰をし始めた。「お前が見せてくれた返礼だ」「本物を見るのは初めてか?」自己愛に囚われた傲慢なこの女は、平静を装う様で屹立から目を逸らさない。やがて、男が女の顔に向けて精液を激しく乱射した。女が低く呻く。
「出したからもうしなくていい」射精を終えた男に挿入の気分はもはやない。 「今度はお前を楽しませてやる」男は女の薄い半袖シャツの上から乳房を揉んだ。ブラジャーをつけていない。茫茫とした女は形ばかりに抗う。シャツの上から突起した乳首を舐め回し、柔らかく幾度も噛んだ。女が呻きを圧し殺す。
 腕を上げさせると濃い腋毛が生えて濡れている。唇を這わすと女の息がいっそうに攪乱した。
 男が身体の反応から女の意図を見定めた様に、女の股間に顔を埋めた。長い蹂躙が続いてじわじわと女が溶けていく。溶解して情欲の肉塊となる。やがて、女の全てが陶酔して麻痺した。
 どれくらい弄ばれただろう。女は挿入そのものが嫌なのか、この様な設定で処女膜を放棄するのが疎ましいのかさえ、今となっては判然としない。女の感覚の全てが茫茫と快楽を漂っているのだ。
 何しろ女は男が言う戯れ言と全く同じ事を考え、男の挿入の場面を妄想して自慰に耽っていたのだ。度々、そうして女は昼下がりの性夢を迷うのだ。真夜中の悪夢の中でも女は義兄のこの男とさんざんに交わっていた。
 そうした性癖が身に付いたのは、やはりこの部屋で自慰をする男を盗み見たのが契機だ。去年の夏休みだった。写真を見て射精しながら、義兄が女の名を呼ぶのを確かに聞いた。男の男根が脳裡に張り付いた。その男根の侵入を妄想して自慰をし、佳境を漂泊するまにまに、女も男の名を呼ぶのである。
もはや、女は横たわり男のいいなりに股を開いている。男が女陰を指で翻弄しながら囁く。「俺達は兄妹だ」「そうよ」「だが、父親も母親も違う」女の淫液は尻まで濡らしていた。「そう」「まったくの他人だ」「そうよ」「お前がここに来たのは一〇の時だろ?」「そうだわ」「あの日、一緒に温泉にいったろ?」「そうよ」「お前のを見た」「私も」「したいと思った」「私も」「今、したいか」「入れて」
 たちまちのうちに、二人の性器は一つの生き物になった。
「初めてか?」「そうよ」「俺もだ」「痛くないか?」「全然」「気持ちいいのか」「凄く」「俺もだ」「これをしたかった」「私も」「夢で見ていた」「そうよ。これをいつまでもしたい」「俺達は結婚できないんだ」「でも、したい」「俺が結婚してもか?」「そうよ」「お前が結婚してもか」「そう。誰にも内緒で」「これは誰のだ?」「あなたの。兄さんのよ」
 「古代の天皇は兄妹で国を支配したんだ」「こんなことをしながら?」「そうだ。兄妹は最も信頼できる関係だからだ」「お願い。首を絞めて」「写真を真似るのか?」「母親と同じくやりたいの」
男は実物の女陰の初めての感触に神経を研ぎ澄ましながら、再び射精した。獣に変幻した女が呻いた。

 絹枝の母親は性根が淫乱な女だった。この後間もなくに、流れ者の訪問販売員について出奔したままに、生き方知れずになった。地主の義父は若い後妻を入れたが、樽川が失踪して、この女の不貞を絹枝が通告したから離縁された。それぞれ結婚した義兄と絹枝は、不埒な誓いの通りに機会をみて交わっていたが、義兄はある事故であっけなく死んでしまった。幼い男児と残された義兄の妻は、夫が存命中から義父と密通していて、地主の家の実権を握っていたのである。


-終焉-

 源開は若い頃からあちこちに子種をばらまいてきた。墓前で犯して絹枝の死後も囲っている若い女も、その一人なのだ。源開は自分の娘を犯し、蹂躙し続けたのだ。その女はあの貴子である。自分の娘とも知らずに、貴子に殺されたあの破戒僧が、源開なのである。

 樽川は空襲はない筈の北の国の地方都市で、すぐに首府を引き払ってきた二人の女と、街外れの畑のついた借家で同衾した。当面は女たちの名義で金貸しをして暮らすつもりだ。この次節だ、その筋に話を通せば新しい戸籍など簡単に手に入る筈だ、などと思案した。女達もほそぼそながらそれぞれ働きに出ている。嬉々として畑を作りながら、今が一番幸せだと言う。男はこの戦争は必ず負けると踏んで、その時節には女達に美容院を開かせる腹積もりだ。
 しかし、樽川の身勝手な思惑には誤算があった。その街には住民には秘匿されていたが、兵器に運用する化学物質を製造する大規模な工場があったのだ。ある日にそこを空襲して帰り際の機上のパイロットが、最後の一発を落とし忘れたのに気づいた。
 敗戦のあの日のほんの少し前の深夜に、遠くから微かに聞こえる警報などにはたかをくくって、いつものように性交していた三人を、この何気なく落ちてきた無駄な一発が直撃したのである。
 東京に残ったあの淫乱な女は、その少し前の春先に、首府の壊滅的な大空襲で焼け死んでいたが、遺体すら確認されなかった。

 絹枝が師範学校の学生だった頃に異人のある男と交わった。そこからこの異聞の物語が発火した。その男のことも書き置く機会が、何れにかはあるかもしれない。
 改めて言うが、衣絵はあの草也の兄嫁だ。源開は貴子に殺され草也が埋めた、あの僧である。


-終-

絹枝の魔性総集編

絹枝の魔性総集編

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-08-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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