北の森の工房

あおい はる

 冬になると、しらぬあいだに空から降ってきていた星の残骸が、透明な結晶となって、北の森のおく、あの、だれかが棲んでいるのかもわからない、けれども、たしかに、いきものの気配がする、木造の古びた建物にあつまるのだと、ネムはいった。あれはたぶん、むかしの学校なのだった。北の森は、夏は、避暑地として人気があるのだけれど、その建物があるおくのほうは、おそらく、ほとんどのひとがあしをふみいれたことがなくって、結晶となった星は、建物のなかで、だれかの手によってガラス細工へとうまれかわるのだとも、ネムはおしえてくれた。
「これがそう。このまえ、おじさんにもらった」
 ネムがみせてくれたのは、キャンドルホルダーだった。表面には、細やかで、複雑な、紋様が、ほどこされていた。
 たんじゅんに、きれいだと思った。
 ほかにも、グラスや、ペンダントトップや、灰皿なんかもあるそうだが、それなりに高価格で販売されているうえに、行って必ず購入できるとは限らないとの話だった。ぼくは、建物をそとから見たことがあるだけで、なかに入ったことはなかったし、すこしだけ怖いとも思っていた。なにかはまちがいなくいるはずなのに、そのなにかの正体がわからないので。ゆうれい、みたいなものだろか、と思っていて、じっさい、ガラス細工を手に入れたひとびとも、売り子をしていたのは大学生くらいの男で、男いわく、じぶんはただ頼まれて売っているだけで、つくっているひとの顔もなまえもしらない、とのことらしかった。
 ぼくが、なんだかやっぱり、ちょっと怖いね、というと、ネムは、でも、きれいだよね、とこたえて、キャンドルホルダーに、かるく頬ずりをした。うっとりしていた。見惚れている。というより、まるで、取り憑かれているみたいな。
 こんど買いに行ってみようよ、とネムはいって、ぼくは、こんどね、と頷きながら、でも、あの建物の、見るからに腐りかけた感じとか、まきついた植物の蔓とか、薄汚れた窓ガラスなんかを思い出して、やっぱり、怖いよなぁと思うのだった。

北の森の工房

北の森の工房

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-08-09

CC BY-NC-ND
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