絹枝の魔性5️⃣

草也

絹枝の魔性 5️⃣


-女教師-

 樽川の脳裏にもう一人の女の記憶がまざまざと蘇って来る。
 絹枝と出会う半月前の、やはり数奇な出来事だった。
 樽川は数日前から、寒村の学校を見おろす山腹の朽ちた山小屋に寝起きしていた。その異様に暑い夏の日は朝早くから学校が騒がしい。やがて、多勢の叫声が木霊しながら山すそを這い上ってくる。下草刈りだ。幼い頃にその経験のある男は察した。
 見つかるのも業腹だと、小屋の近くに格好の窪みを見つけて身を隠した。木漏れ日にうたれてまどろむ内に、甲高いざわめきが近づき、やがて遠のいて行った。小屋に戻ろうと身を起こした矢先に人の気配を感じて、男は大木の裏に潜んだ。
 そこに女が現れた。すると、もんぺと一緒に黒い下穿きを引き下ろして、しゃがみこむ間もなく放尿を始めたのである。激しく繁茂する陰毛の下から黄金色の太い放流がとめどなく続く。やがて、帽子と覆いの手拭いを取った女の弛緩しきった顔に移した男の視線が、息を潜めた。
 あの女だった。一〇年前のあの夏の出来事が鮮やかに甦ってくる。若い日の色情と残酷と、決して明かされてはならない恐怖と悔恨が同居する、固く密閉してきた記憶だ。今では自分でも理解できない激情で、兄弟分の不良を刺殺した樽川は、その町を離れた。しかし、生業にもつかずに無頼な暮らしを続け、流れ着いたある町でやくざ同士の喧嘩に巻き込まれて、傷害致死で七年間服役した。出所して間もなく、場末の酒場の女と同居したが、男の性癖に怯えた女は間もなく姿を消した。やくざには懲りている。生業に就く気もない。樽川は服役中に同房だった男から聞きかじった知識を活用して雲水になり、北の国を放浪した。良く通る読経で布施を受ける。出征や戦死で主が不在の家に上がり込み、互いの情欲を貪り尽くすまで暫く居座る事もある。かつて性交した女を訪ねて金品や身体をせびったりもした。
 男は幾多の女と野放図な交合を重ねてきたが、あの事件の共犯者の絹枝と、特別な構造の性器を持つ眼前のこの女は忘れる筈もない。

 長い放尿を済ませて、豊満な尻を揺らしながら立ち去ろうとする女に、男が声を浴びせた。振り返った特徴のある鼻が男の姿をまじまじと見据えて、「あなたなの?」と、発した乾いた声が男の耳にまざまざと甦った。「ここで何をしてるの?」「今まで何をしてたの?」しかし、女の声は二人の関わりを既に忘却したように、いささかも乱れてはいない。やくざの抗争に巻き込まれて身を隠していると、短く言葉を濁すと、「この時局だもの、根なし草は駄目よ。陛下のために役立たなきゃ。こんなにいい身体をしてるのに」今しがたのふしだらな行為を目撃された衝撃や、あの時の秘密の思い出に浸る風情などは微塵もなく、女は真顔で説諭を始めたのである。 男の粗雑な神経と物言いに獰猛な電気が走った。棲みついた獣が頭をもたげた。「先生になったのか?お前のような女でもなれんだな。一〇年もたつと随分と気の利いた事を言えるもんだ」女の姿態が凍りついて唇までもが硬直した。男の言葉が憤怒している。
 「俺は戦争で死ぬなんて真っ平だ」「だいいち天皇なんて虫が好かない」「あの夜の事を忘れたか?良くもそんな口がきけるもんだな?亭主がいるんだろ?」女がわずかに頷く。「昼間は子供相手に綺麗事ばかりを言って。毎晩、そのやりたがりの股を広げてんだろ?それとも先生らしく少しは上品になったか?」「お前の本性を洗いざらい亭主に教えてやろうか?」女は氷の微笑を浮かべて豊潤な乳房を揺らせた。
 「ご免なさい。私が無調法だったわ。どうすれば許してくれるの?。何でもするから言いつけて」身体をよじる女の肉厚の半開きの唇が濡れて紅い。
 「そうだったな。あの時も何でもするからと許しを請うたな。そうして、お前という女はいたぶられるのが好きだった。虐められると快感を感じるんだったな?」
 男が杉の大木を女に背負わせた。「俺の言う通りに言うんだ」承諾の印に女が紅い舌で唇を舐めた。
 女が男の言葉を復唱するのである。「あんなことを言って本当にすみませんでした、一〇年前にあんなに喜ばせてくれた人なのに」たちまちに、女を自虐の快楽が急襲して口内を干上がらせる。「どんなことをしても謝ります。何でも命令して」女が男の口調の復唱を続ける。「戦争なんかいかなくていいのよ」唇をべろで舐めて、噛み、唾を呑んだ。
 「天皇なんて生き神じゃない。負け戦で兵隊を殺し続けてるだけの只のボンクラよ」「どう?これでいい?」
 女が濡れた瞳を見開いて男の目を捉える。「もう自分で言うから」「あなたの好きなこと、いっぱいするから」「機嫌直して頂戴」「夕方までに集合場所に戻ればいいんだわ。時間はたっぷりあるのよ」長い髪が数本、顔の汗に貼り付いていた。
 「天皇は神じゃないわ。おまんこやったから…」「べっちょ?」「…そう。このべっちょから産まれてきたんだもの。私やあなたと同じだわ」「あの男は皇居で大勢の女官と、毎日、べっちょしてるんだわ」「そんな男のために戦争になんか行っちゃ駄目なのよ」「あなたは死んじゃ駄目なんだわ」
 女は男の性癖を承知し尽くしている。女も同じ色情の持ち主なのだ。「あなたは戦争になんか行かなくていい。死なないで」

 「一〇年前のあの夜のことも、次の日のことも忘れる筈がないわ」「あの夜に絹枝が言ったんだわ。あの事を見られたから、あの二人にやらせるしかないってって」「あなた達は順番をじゃんけんで決めたわね」女はゆっくりともんぺの紐を解き始めた。「あの頃は未だ禁止されてなかったから私は青いスカートだったわ」もんぺがずり落ちた。黒い下穿きが窮屈に女の極秘の肉を隠している。
 「先の男のは小さくて卑しかった。コンドームをする約束だったのに途中で外してしまって。入れたと思ったらすぐに射精して。濡れてもないから痛いだけ。少しも良くなかったのよ」「されながら、あなたのに絹枝が口でコンドーム被せるのを見てたんだわ」「絹枝に射精し終わったばかりのあなたが、これを吸ったわね」
 作業着のボタンを外し、女は片の芳醇な乳房を露にして揺らすのである。紫の大きな乳首を摘まむ。紅潮した桃色の肌が汗に艶めいている。「見て。昔と変わった?」「随分と肥ったでしょ?」「あなたはあんな奴が出した汚いのには嵌めないって、言ったわね」「私が小便したい、みんな流れるからって言って」「小便するの、あなたに見られたわねわ?さっきみたいに。それでもあなたはしなかった」「そして、あなたのを舐めさせたんだわ。あの女の臭いがしたわ」「舐めさせながら、ほんとは先に私の方が良かったって。二人っきりでしたいって、言ったわね?」「そして、口に射精されてみんな飲んだでしょ?」
「次の日に二人っきりでしたわね?あの滝壺で。やっぱり、あなたにひどく怒られた。あの人としたのを責められたんだわ」「あの人と。そうよ。見たこともない桃色の異人の男よ」女が下穿きの中に手を入れた。
 「私の初めての男。あの大きいのが私のここに入って。それをあなたが見ていたのね?」女が視線を流して男の隆起を確かめる。「あの滝壺で、俺のとどっちがいいか、確かめるって」女が下穿きをゆっくり脱ぎ落とすと漆黒の陰毛が現れた。痙攣する腹と縦長の臍。大きな黒子が三つ。
 「あなたがここに指を入れたんだわ。こんな風によ」女がふしだらに足を開いて漆黒をまさぐる。「ここに入ったでしょ?あなたの、それ」「さっきから立ってる、それ。窮屈でしょ?あなたも出して。自慢のを見せて頂戴な?」「そう、それよ。真っ黒の。おっきい…」「そして、異人の桃色のとどっちがいいって。…桃色って私が言うと。懲らしめてやるって。あなたが、したままで中に小便したんでしょ?」「あなた?あの時みたいに虐めて頂戴な」ゆっくり反転して豊かな尻を男に晒す。突き出して片手で撫で回す。「この尻、厭らしいケツだって。あの時みたいにぶって。虐めて」「アザ?いっぱい、あるの?キスマークよ。夕べ、夫がつけたの」「もっと聞きたい?」「結婚して?四年よ」「でも、一年前から不能なの。そう、立たないの。ぐにゃぐにゃで嵌めれない。でも毎晩したがるの」女は快感の趣くままに紅い舌を出して厚い唇を舐めた。
 片足を石にあげて、ふしだらに広げた豊かな太ももの付け根に激しく繁茂する陰毛を撫で回し、指を入れて女陰を裂いて、紅い肉を見せびらかす。片足のくるぶしに、もんぺと黒い下穿きがよじれてへばりついている。上着の作業衣をはだけて乳房をさらけ出している。女は痴態を場末の踊り子に似せて淫らに計算しているのだ。半裸の女が揺らす方やの豊満な乳房と、紫の大きな乳首。女陰から抜いたばかりの方やの指を舐める。指の形を残した割れ目から淫乱な液がこぼれ出ている。
 「あの日と同じ位に虐めて。べっちょの中に小便出して」「それを嵌めて、虐めて」男の視線と女の女陰が粘着する。
 手を引かれるのと同時に、女が男の懐に身を崩した。長い間、互いの口を吸い合った。女が陰茎を捕らえて離さない。男は豊かな乳房を鷲掴みにした。やがて、二つの性器は瞬く間に深々と結束した。背後からの男の火柱を肉欲の深奥で享受し、乳房を思うがままに紊乱されて、あえぎを圧し殺す。男は背後から女の首を絞めながら、悶絶する膣に劣情の丈を放尿した。
 女が男根にまとわりつきしゃぶりつくす。やがて長い息を吐き、飢えを満たした女が横たわった。
 樽川の射精を存分に受けとめた宮実が、「絹枝ともしたいでしょ?居場所を知りたくない?」と、言った。「あの次の日に、私とした後に、絹枝にも嵌めたでしょ?あの神社で」「そうなの。絹枝も否定してたけど」「女の勘よ」


-極限の性戯-

 樽川と再会した時分の衣絵は身体中が餓えていた。荒んでいた。
 嫁いで八年になるのに子供を産めない衣絵は疎まれていた。とりわけ、義母は自ら気に入って進めた遠縁の娘との縁組みも、跡取りを産めないとわかった嫁には、別人に対する様にことさら辛く当たり続けた。
 疎外感が募るばかりの衣絵は、従順な夫に様々な性戯を強いて捌け口を求めた。夫は従うものの、しかし、生来が淡白な男だった。何事も気丈な母親の言いなりで、そもそも絹枝はそれが許せない。嫁の座を守るために、求められるままにか、或いは巧妙なしぐさで誘ったのか、義父や大株主などと性交をしていた。夫には似ていない、首府にいる大学生の義弟とはどうだったのか。衣絵は彼らを取り込む事には成功したが、何れの男達にもあの異様な性癖は隠したから、真から身体が満足する事はなかったのである。
 男達との戯れ事を察しているのか、姑の無体がますます露骨になる。離縁すら画策し始めていた。衣絵の憎しみは殺意を孕んでいったのだ。
 衣絵にとっても樽川は忘れられない男だった。そして、再会した男は性交以上の利用価値を持っていた。
 衣絵は全てを樽川に打ち明けた。そして、二度目の殺害を依頼したのだ。

 暫くして、衣絵はすべての遺産を手に入れた。警察も全く疑っていない。流しの犯行で捜査が進んでいるが、一向に進展はない。衣絵は満足だった。
 あの日、樽川を手引きして忍び込ませて三人を殺させた。そして、自身の暴行を偽装したのだ。
 衣絵は怨念を晴らして復讐を遂げ、欲しいものを全て手に入れた。これ程の喜悦はない。いずれは主要な男達を自身の身体で籠絡し、経営を支配すれば良いのだ。衣絵にとってはいとも容易い事なのだ。だから、樽川なども気に入りの性戯の道具と変わらなかったのである。
 衣絵に罪の意識などは微塵もない。自分を苛んだ者達に下された因果応報ではないか。外地の戦争でも、最近にわかに激しくなった空襲でも、人などは虫けらの如くに死んでいるではないか。衣絵は全く物欲の世界の、自己本位の魔性の住人だったのである。
 しかし、あれ程したくて堪らなかった樽川にこそ、衣絵が考えてもみなかった誤算が棲んでいた。


-絹枝惨殺ー

 月にニ回、県境の温泉宿で身体を与えるのが会長との契約だから仕方ない、と絹枝は言う。やがて大店を手にするための辛抱だとはいえ、その度に噴出する嫉妬が住職の獣欲を刺激し、苛む。
 その日も、戻ったばかりの女を昼日中に組伏せた。「会長の写真も撮ったし面白い話も聞けたし。現像したらすぐにでも脅せるわ。あの店は、もう私たちのものも同然よ。会長の鶴の一声で事業を畳めばすむことなのよ。土地家屋は私の名義だもの。売り払えば生涯遊んで暮らせるわよ。こんな辛気臭い古寺ともお別れできるのよ。誉めて頂戴」「そうよ。会長と私が嵌めてる写真よ。陰茎のイボも私の蛇の刺青もしっかり撮ったわ」「どんな風にやってきたか、詳しく?全部聞きたいの?厭らしいわよ」「会長ったら相変わらず、驚くほど元気なの。旅館のいつもの部屋に入ったら、もう隆起させて。私の写真見てたのね。あの蔵にあったのはみんな会長が持ってるんだもの。
 座るまもなく、やにわにモンペを脱がされ、股間から数珠を引き出すのよ。一個ずつ、ゆっくり。汽車から降りて温泉行きのバスに乗る前に、駅の便所で入れたの。みんな会長の命令よ。お前は可愛い女だ、俺のために刺青まで入れて、今度は俺の逸物の刺青も入れてくれって言ったわ。私が会長分のために刺青入れたって信じてるんだわ。数珠をみんな抜き出してから、小便したい、我慢してたって言ったら、この写真と同じくやれって。風呂場に連れていかれて。仰向きに寝て舐めさせられながら小便させられた」「俺もしたくなったって。小便かけられたわ。身体中に。口にも。前の時なんかおまんこの中にもしたのよ」「風呂から出たら、鞄から派手な下穿きと浴衣を出して、これを着ろって。姑のだって。着たら面白い話を聞かせてやるって」「会長は嵌めながら話をするのが好きなの。私と同じ」。「あなたもそうでしょ。嵌めたくなったの?」。二人は慌ただしく一つになる。
 「そうよ。こんな風に私と嵌めながら、姑とやってるようだって。会長はあの姑とやっていたのよ」
 「結婚して一年後の夏に義弟が事件を起こして。夫と舅がその始末に出かけて留守で。私は兄が事故に遭って見舞いに、二日前から帰省していたの」

―夜に姑から電話があって会長が駆けつけると姑が一人。迎えるなり会長にむしゃぶりついて泣き崩れた。そして性交した。この時、姑は四八。会長は五一。
 姑は全てを性交で解決する依存症だったのだ。「身体が震えて堪らない。落ち着かせて頂戴」嵌めながら話し出す。弟が喧嘩で相手を怪我させた。入院してるが重体だと。会長の射精を受けて豊満な身体を痙攣させながら、「あの子の種はあなたよ。あの子はあなたの子なのよ」と叫んだ。
 二人は親戚だ。会長が一七、姑が一四の時に初めて性交した。姑が婿をとってからもおとなしい舅を尻目に関係は続いた。姑は色情の旺盛な女だったのだ。
 「姑がそんな風だったなんて。人なんて解らないことばかり。私にもまだまだ秘密があるのよ。あなたにも」「あの時、おまんんこの毛を剃ったのは夫だって言ったでしょ。本当は会長がやったのよ」「舅ともやったわよ」「弟と?後で教えてあげる」「それよりあなたよ。夫と舅を殺して、姑を殺す前に縛って嵌めたでしょ。どうだった?命乞いしたの?やらせるから殺さないでって?やっぱりね。射精しながら首を絞めたの?いつもより気持ち良かった?」「私の居場所はあの女から聞いたんでしょ?。その時に嵌めたでしょ?一〇年ぶりに。何発やったの?良かった?」「一〇年前のあの日もあの女と先にやっていたわね?知ってるのよ。金玉があの女の臭いおまんこの臭いがしたもの」その時、絹枝は話している相手があの樽川ではないことに気づいた。源開の憤怒とも喜悦ともつかない顔が凝視しているのだ。その目に妖しく微笑んだ。もはや、この女は狂っていたのかも知れない。そして、源開の首をさらに強く絞めながら、臆面もなく続けた。「あの紡績から戻った尻の大きい娘はどう?三人でやりたくない?私が誘惑してやろうか?紡績は女同士が多いのよ。ああ。気持ちいい。もっと絞めて。もっと」

絹枝の魔性5️⃣

絹枝の魔性5️⃣

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更新日
登録日 2020-08-09

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