ひぐらし

夕暮れ時に鳴くひぐらしより、はやく目がさめてしまった朝
ティーポットに茶葉を入れ、湯を注ぎ、待つ
その二分間に聞くひぐらしの声が わたしは好きです
お湯は赤く、空は青く、少しずつ濃くなってゆきます
風はありません
いまにも溶け出してしまいそうな、たゆたう朝雲も
夜明けの闇を抱える木々も、朝焼けに手を伸ばす電信柱も
みな等しく朝を迎えます
わたしはあと いくつの夢をみて
いくつの思い出を忘れてしまうのでしょう
憂いはひぐらしの鳴き声とともに、儚い響きとして
わたしの心を過ぎ去ります
最後の一匹が、一編の詩を紡いで、朝が終わろうとしています
どうか、いつまでも鳴き続けてください

ひぐらし

ひぐらし

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-03

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