熱帯夜
都会の、地下に、もしかしたら眠っているかもしれない、なにか。化石だとか、遺跡だとか、もしくは、地底人の住処だとか、そういうの、を、想像しているあいだに、せんせいは、ぼくのあたまを、犬や、猫にでもするように撫でまわしながら、月を見上げていた。かたや、ぼくは、歩道橋から見下ろして、車の流れを、ひとの行き来を、その下に存在しているかもしれない、なにかを、想い描いて、でも、こころのどこかで、いまならこの恋が、むくわれるかもしれないと、かんがえていた。せんせいは、ほんとう、ずるいくらいの自然さで、ぼくに触れていて、この瞬間、神さまに試されているのかもしれないと、告白するべきか、否かの決断を、突きつけられているような気分で、静かに、呼吸をしているつもりが、心臓は、はやくなるばかりだった。
夜。
二十二時。
なまえもしらない鳥たちが、さわいでいるのは、外敵に眠りを妨げられたのか。
上を見ているせんせいと、下を見ているぼくの、交わらない視線と、ぼくの後頭部から離れていかない、せんせいの手。ぼくにそっと、だいじょうぶだよと耳打ちをするのは、天使か、悪魔か。(熱にうなされそうだ)
熱帯夜