紫陽花のピアス
そらがあおかったら、なんでもゆるせる気がする日もある。きまぐれに、あのひとが、わたしのためにくれたピアスを、ごめん、わたしは、こなごなにしてしまった。道路に、アスファルトに、残骸。車のタイヤ、というものは容赦なく、紫陽花を模したピアスは、散った。ほんとうは知っている、あのひとには、こいびとがいて、わたしのことは、きっと、妹みたいに思っている。少女漫画の典型みたいな、恋を、わたしはしていて、くるしいときにいてほしい、やさしいひとは、だいたい、星の果てで静かに、本を読んでいるので。ねむれない夜があるのは、通信がうまくつながらないせい。やさしいきみのところまで。
轢かれたピアスは、ていねいにひろいあつめるひまもないまま、後続車のタイヤにすりつぶされ、ほとんど白いこなとなって、細かなアスファルトの凹凸にめりこみ、もう、どうすることもできなかった。きみとのコンタクトがとれなくなって、七日が過ぎて、あのひとがこいびとと、寄り添って歩いている後ろ姿をみたとき、どうしようもない、という、あきらめの方がまさっていた。くやしい、とか、かなしい、よりも。鬱蒼とした街で、わたしのことをみつけてくれるのは、とうとう、真夜中のバケモノだけになってしまって、でも、バケモノが、いちばん、だれよりも、わたしをたいせつに想っていてくれているようだった。わたしの、爪を、指の爪を、まるで、たからものにそうするように、そっと、愛でるので。ずっと、神さまが泣いているみたいに、雨は降り止まないで、それが、神さまの創造したわたしたちにも伝わっているのか、みんな、なんだか、はかなげで、さみしげで、かなしいきもちばかりが、浸透している。好きもいえなくて、死ぬ感情も、ある。
紫陽花のピアス