真珠と涙

何も映せなくなった瞳で流す涙は
本当に綺麗なもののような気がする
だって
その涙だけが、私の最期を映してくれるはずだから
そのとき、私は自分で流した涙も見られないけれど
私が真っ白になっていく姿を
その涙だけが、見届けてくれるはずだから

教えて欲しい
全てを手に入れることも
全てを失うことも
さして変わらないとしか思えないのは
永遠という言葉の胡散臭さを
誰よりも自覚しているからだろうか
私にも、その言葉を信じていた頃は
あっただろうと、思うのだけれど

いつだって本当に手に入れたいものは
取り返せない、過去の中にしかなかった
瞬間の中にしかなかった
生きることは、きっと
今日や明日を生きるための土台を築くことでも
過去の集積で出来た歪な土台を修繕することでもなくて
あらゆる瞬間の中で 後悔の少ない選択をしていくことなのだろう
あらゆる場所が安住の地であり、
また、そうではないのだから

私は、貝に収められた一粒の真珠のような
後悔のない、そんな選択をひとつ
たったひとつでいいから取っていきたい
そしてゆっくり時間をかけて
丹念にそれを磨きあげたい
私がその真珠を胸に抱えて果てるとき
いつか思い描いた涙と同じように
私が真っ白になっていく姿を
その光沢が余すことなく、
映してくれるような気がするから

真珠と涙

真珠と涙

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-23

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