人生にもう一度はないって言うけど、誰が検証したからそんなことが言えるんだろう。放課後、二人きりの部室に夕日がさすけど、きみは寝ていて、地球なんかが終わりそうな雰囲気だけど、このままだときみはまったく恐怖することなく終わりと向き合うことになる。だからまだ地球は終わらないってことに僕は嫉妬しているけど、きっとほんとうはそうじゃない。

パックに詰められた豚肉の、白い脂が指につくと汚いってこと。生物がなまものになる瞬間を何度も僕らの指先は経験している。やまない雨はないけど、雨はやんだらまた降るし、雨がやむまで生きているかどうか。
舌打ちが高等な技術に見えるのは十代の特権。
発生とはいのちの歴史の縮図なのです。生物の時間にぼんやりと聞いていた。よくよく考えれば当然で、だから怖い。生まれることとかの再現性。何度でも生まれる僕のこと。何度でも生まれるきみのこと。魚が一匹もいない海が凪ぎになれば、何度でも生まれてくる。はだかの僕、そして卵白がどろどろしているところ。卵が先でも何が先でもどうでもよかった。ナメクジウオに生まれる僕が一人くらいいてもいいかなって思った。この怠慢が恐怖です。こんな放課後はありふれていて、どこかの部室でもまた女の子が昼寝をしている。女の子はきみに似ていて、となりの男の子は僕に似ている。そこには時差しかないことに、気づかなければよかった。

ナメクジウオに生まれる僕が一人くらいいてもいいかな。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-03

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