海の街

 やくそくの日に、いつも、きみは、つめたいレモネードをのんでいます。わたしは、朝のねむりからさめたときの、あの、すがすがしいのと、なんだかけだるいのとの、あいだ、みたいな感覚をさまよいながら、マンゴースムージーを注文しました。ハンバーガーもたべられるところだけれど、きょうは、あんまり、ハンバーガー、という気分ではなかった。フライドポテトや、オニオンリングというかんじでも、なく、とりあえずは、マンゴースムージーで。たべるとしたら、バナナケーキ、なんていう心持ち。
 夜の十時だけれど、やけに街がさわがしいのは、雨で、海と街の境目が、あいまいになって、海のいきものたちが街に、はいりこんできたからでした。さっき、わたしは、イルカをみた。きみは、レモネードをのみながら、くらげが光っていた、と言って、そういえば、お店のいりぐちのガラスに、ひとでがへばりついていたなぁと思いました。街のひとたちも、海のいきものたちも、おたがい、じゃまになったり、ふまれないように、うまいぐあいに、よけながら歩いているし、泳いでいる。雨が上がって、水がひけば、海のいきものたちは、海に帰るのだけれど、この街は、ときどき、こういうことがあるのです。雨雲がしりぞいて、空に、おおきな月があらわれて、街は、月の光だけで、とても明るいです、昼まみたいに。だから、みんな、あんまり、ねむっていない。まんまるいおおきな月の夜は、ちいさなこどもも、起きてしまう。
「ねぇ、チョコチップケーキたべたくない?」
 きみが言って、わたしは、バナナケーキがいい、とこたえました。きみは、バナナケーキもいいね、とうなずいて、席をたちました。レモネードのはいっていたグラスは、もう、こおりしかのこっていませんでしたので、ついでにおかわりをしに行ったのだろうと思います。横目でみる街には、月あかりのもと、歩くひとたちと、泳ぐいきものたちが、しきりに行き交い、なんだか、まるで、夜、ではないみたいでした。
 となりの、となりの席にいる、おとこのこと、しろくまが、テーブルのしたでひそかに、手をつないでいる。ひそかに。

海の街

海の街

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-06-30

CC BY-NC-ND
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