Adagio Assai
Artalexher

それでも世界は
香港
時代はおそらく1980年代
電話がコールするも
バスローブに身を包んだ冴えない男は
気にもとめず窓から望遠鏡を覗き込んだ
何かを静かに決意していた
ゆっくりとレコードをかける
おもむろに 流れる
Adagio Assai の調べ
モノクロームに映し出された
彼らの血肉に染み込んだ
愛と悲劇
チベットのダライ・ラマ
水飛沫
飛び立つ小鳥の羽音に虹が架かる
はじめての鉄道の旅
少年は破れたポケットに詩集を忍ばせ
列車に飛び乗った
符牒の数々を破り棄て
僕らの届かぬ金星の詩を口ずさんだ
郷愁の香りがするそのうなじは
青春のただ中の不安と自信で沸騰している
風に舞う紙切れに 精霊は
そっと触れては竪琴を鳴らしている
神州にキノコ雲が立つとも知らず
線路は従順に彼を運んだ
その成り立ちの犯せぬ秘密は既に少年の鼓動を駆り立たせていたに 違いない
曼荼羅に靜めるべく 歴史書を 魔道書を 悪徳を 知りたがっていた
あゝ めくるめく 眩暈
15歳の少年は瞳を閉じた
すてきな惑いだ
恐怖も
勇気も
あったものじゃない
太陽に降り注がれて
いのちを感じていたいのだ
神よりも神
悪魔よりも悪魔 の人類に立ちはだかって
天地創造にして アーマゲドン
雪崩を起こす前夜に目覚める無数の鼠よりも早く
パリの石畳を駆けたい!
戦火の流れ弾から産まれたフラワーチルドレン
おゝ!待ち侘びていたよ、ディヴェルティメント
その恩寵
神の一雫の涙
緋く炎えろ 焼き尽くせ 太陽
空よ
海よ
自由よ
そして あゝ
あわれなモナリザよ
この夢は なにごとか
いつの間にかレコードが止まっていた
男はゆらりとベランダに立つ
さようなら人類
曙の 短い羽衣と共に 水を臥所に
大都市の 哀しい垂直を
游ぶ 翼に 僕はなる
大切な友人 S @fgma14 より 僕の詩への返答を頂いた ____

ドーヴァーを渡りノルマンディーへの
列車の轍が連なる
百年の終止線へ向け
最初の丘陵のカーブは穏やかだ
脈拍と重なる、
黒鍵Gisから白鍵Aへのまろび
なだらかな連結と同じく
在りし日
蜜蜂の五線紙はみどり芽吹く草絨毯だったこと
各々の国境では
人の業に石榴が地を這う
その緋色が惨いと二度と見えぬ人々が歎く
それが条理なら
僕は
知るより早く死に気付く
彼女の髪に 菫を挿したい
拡声器 狂気 戦場の煽情のプロパガンダ
罪人が聖母の顔をして死んでいくから遺される者は不具の烙印を焼かれる
ありあまる自責 ありあまる欠損
来し方行方などない空
咆哮は喉から先へ飛び発つことはない
当主が火をつけ滅ぶ館で
水没の舟に君と乗った
長閑な夏の木洩れ日、
光__が降り注ぐ
眩しい梢枝のシャンデリア
乱反射
頬、吹き抜ける風
これが 前線とは思えない
死ぬのだし
生き存える
朝焼けを勿忘草と見た
春夏秋冬、精霊が
廻廊で燦ざめくものだとは知らずにいたから
湖が教えてくれた
渓谷を渡る風に散るリボンは
墜落する翼竜の最後のひと息
海辺 小さな君が踊るコンテンポラリーには
確かにさざ波にラヴェルが聴こえた
ある微雨の朝がきたらルーブルに出向き
レオナルド..
僕はあんたのGiocondaに膝をつく
見透かし、赦し
菩薩なのか修道士なのか
運命めているね
とうの 百年の昔から
涙が でる
猟銃で 撃ち抜いてくれ
Ravel: Le concerto en sol majeur
movement 2 E-dur, 3/4
Adagio assai
Artalexherの詩を読んで
Adagio Assai