ふれあい
ヒナギク博士から預かったタマゴから、マダツボミが孵った。
「わ〜かわいい!」
タマゴから孵ったマダツボミの姿を見た私は目を輝かせる。
タマゴからどんなポケモンが孵るのか、ずっとワクワクしていた。
タマゴから、こんなかわいい子が産まれてくるなんて!
私はマダツボミに右手を差し出した。
「マダツボミ、初めまして! 私はユイ。これからよろしくね!」
マダツボミは私の顔を見つめた。暫くじっと私の顔を見つめていたけれど、プイと視線を逸らされてしまう。
「あ、あれ?」
「どうやらそのマダツボミは、恥ずかしがり屋さんのようね」
私が戸惑っているとヒナギク博士がそう言ってきた。
「恥ずかしがり屋さん?」
「ええ。タマゴから孵ったばかりで、まだ人に慣れないのもあるのかも」
ヒナギク博士の言葉に、私はマダツボミに差し出した右手を引っ込める。
そうだよね……このマダツボミは産まれたばかりで、不安だよね。
これから私とバディーズを組むんだし、おやである私が安心させないと!
マダツボミに触れる代わりに、私はマダツボミに笑いかけた。
「マダツボミ、大丈夫だよ。あなたのことはバディである私が……おやである私が、守ってあげるから!」
視線を逸していたマダツボミが私を見た。マダツボミににこにこ笑いかけていると、ちょっとは不安が消えたみたいで、マダツボミも小さく笑い返してくれた。
マダツボミがタマゴから孵って、彼女とバディーズになって、数日が過ぎた。
数日経ってマダツボミの不安は消えてきているようだけれど、まだ私に心を許せてはいないようで、私といるとマダツボミは落ち着かない様子だった。
うーん、マダツボミと仲良くなるためには、どうすればいいんだろ?
考えて、ある人の姿が脳裏に浮かんだ。
そうだ! あの人なら、きっと……!
私はその人の姿を探した。タイミング良く、その人はポケモンセンターの中にいた。
「フクジさーん!」
ウツボットと一緒にいるその人──フクジさんに声をかけた。
ウツボットとバディーズを組んでいるフクジさんなら、ウツボットの進化前であるマダツボミのことも詳しいだろう。きっとマダツボミと仲良くなる方法も知っているに違いない。
「おお、ユイくん。どうしたのかな?」
私は足元にいるマダツボミを指し示した。
「タマゴから、マダツボミが孵ったんです!」
「おお、おめでとう」
「ありがとうございます! それでこの子と仲良くなりたいんですけれど……どうすればいいのか分からなくて……」
「ふむ。なるほどね」
フクジさんは私の足元にいるマダツボミを見つめた。マダツボミはフクジさんに緊張しているのか、もじもじしている。
「どうやら恥ずかしがり屋さんのようだね」
「ヒナギク博士もそう言っていました」
私はマダツボミを見て、苦笑した。
かわいい子なんだけれど、もっと甘えてほしいなあ……なんて。
マダツボミから、フクジさんの隣にいるウツボットに視線を移す。
「ウツボットとバディーズを組んでいるフクジさんなら、マダツボミと仲良くなる方法も知っているだろうと思って……その方法を教えてほしいんです」
フクジさんは暫く私とマダツボミを交互に見て、ほっほっと穏やかに笑った。
「それは簡単なことだよ。ユイくん、マダツボミに触れてごらん」
「えっ? でも……この子、あんまり触れられたくないかも……」
「大丈夫。やってごらん」
フクジさんに促されて、私は恐る恐るマダツボミの頭に手を伸ばして、そっと触れた。
私に触れられて、マダツボミはちょっと驚いていたけれど、嬉しそうに鳴いた。
「わ、喜んでくれた!」
「うむ。その子は君が触れてくれて嬉しいようだね」
私はあの時引っ込めた右手を思い出した。
マダツボミがタマゴから孵った日に、私に触れられたくないのかなと思ってマダツボミに触れなかったけれど、それは間違いだったみたい。
ごめんねマダツボミ。
心の中でマダツボミに謝って、マダツボミの頭や頬を撫でた。
「触れるという行為は大事だよ。マダツボミと仲良くなりたいなら、沢山マダツボミに触れてごらん」
「……はい」
私に触れられて、マダツボミは安心したみたい。緊張していた表情が和らいでいる。
「ありがとうございます、フクジさん!」
フクジさんから、大事なことを教わった。
笑顔でお礼を言うと、フクジさんは穏やかに笑い返してくれた。
それからまた時間は流れて。
「マダツボミ、今日も頑張ろう!」
マダツボミに笑いかけると、マダツボミは私の足にすり寄ってきた。マダツボミとはすっかり仲良しだ。落ち着きがなかった頃が嘘のように、マダツボミは私に甘えてくる。
「ほっほっ。仲良しさんだね」
「フクジさん!」
ウツボットをつれたフクジさんが声をかけてきて、私は笑顔になる。
「この子、本当にかわいいんですよ! かわいすぎて進化させるか迷っちゃいます!」
かわいいこの子を、進化させるかどうか。
そんな新たな悩みを抱えながら、パシオでの私の一日は、今日も始まるのだ。
ふれあい