Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-2b>>
本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。本作品に登場するキャラクターの性格や行動は実際のゲームと多少異なる場合があります。
aパート:ステラ視点 bパート:ルーナ視点
<<一日目-2b>> 扉の中身
バタンっ
「ありがとうございました~」
玄関扉が閉まる音を下げた頭の後ろでうけて、一拍置いてカチャリと鍵をかける。
ついこの前まで暮らしてた木造平屋のおうちは左右にスライドさせて開け閉めする扉だったから、ちょっぴり新鮮な気分。
それにしても、思いのほか大きな音を鳴らすのね。
夜中に突然鳴ったりしたら、驚いて飛び起きちゃうかもしれない。
そしてその足で妹の布団にもぐりこもうとする私。
なのにそこには妹もいなくって――
――今は部屋中の窓を開け放っていて、風の通り道ができているからよね、きっと。
そう考えて、走り出した空想と顔を出した怖がりの虫を閉じ込める。
「さてさて」
振り返って居間に戻る。
運送屋さんはやっぱり力持ちで、私の愛用する食器棚(私の背丈より高い)や黒檀でできた書斎机(元は祖父の父のものだったらしいが妹が気に入って使うようになった)、姉妹二人分を収納してくれる衣装箪笥(祖父も由来は知らないらしい年代物)を次々と部屋に運び入れては私の言う場所に置いて行ってくれた。
さっきまでからっぽに近くてどこか寂しそうだった部屋が、ちょっぴり家具が増えて満足してるみたい。
とはいえ居間にはまだ、大きな物は少ないけれど。
私と妹がこれから暮らすこの家には、台所がひとつと居間がひとつある。
玄関を開けるとすぐ左に台所、正面には居間へ続く通路とその奥に大きく口を開けるガラス窓があって、外から帰って来たばかりなのに外が見えるというちょっぴり不思議ワールド。
そして居間から周りこんで台所の奥に洗面所とお風呂。こちらは残念だけれど、あまり大きいものじゃない。
お風呂があるのと反対側、居間に開いた扉の向こうに――これもふすまや障子じゃなくって、ドアノブの付いた『扉』だ――同じくらいの大きさの部屋がふたつ。
片方はベランダに続く窓が開いていて、もう一つには窓が無い。
最近妹は、私とずっと一緒にいるのを嫌がるようになった。
だからきっと部屋も分けるんだろうな。寂しいな。
そう思っていたら、妹はこの家の間取り図を見るなり窓の無い部屋を指差して「書庫」と言った。
もうひとつの部屋は、寝室。
妹が自信満々に何か言ったら、それはたいてい決定。
妹も満足、私も満足。
たしかこういうのを、Win-Winの関係?って言うんだったよね。
うんうん、と一人で納得して作業に取り掛かる。
何かおなかに入るとすぐに眠くなっちゃうから、お昼ごはんの前に出来るだけ荷物を片付けてしまいたい。
書斎机と本棚は書庫に運び込んでもらったし、衣装箪笥や大きめの鏡は寝室に入れた。
寝室はこれで布団を二人分敷いたらぎりぎりになっちゃったけれど、特に困らないし。
むしろ嬉しいし。
居間に今ある大きなものは食器棚くらいかな。うん、ダジャレじゃなくって。
台所に置くにはさすがに背が高いからと、居間の台所よりに置いている。
台所の奥にあるスペースは冷蔵庫さんが確保しちゃったから。
TVはまだ無い。食卓にするような机もない。
届いた畳マットが壁際に立てかけられて、太陽の光を浴びながら中央に陣取るダンボール箱が片付けられるのを待っている。
これからの季節、暖房器具もなにか買わなきゃ。
この部屋に掘りごたつは無いし、石油ストーブはこういう集合住宅じゃ危ないかと思って持ってこなかった。
ずいぶん年代物でそろそろ壊れるかもしれないと思ったからだったりもする。
ガサガサと、中身を確認しながらダンボールを開けて行く。
調理器具、食器類、裁縫用具に編みぐるみ。
私の本と雑誌と必要書類のうちさして重要じゃない物。
大切な書類は私と一緒に引っ越してきたからここには入ってないの。
夢と希望と卒業証書。
あ、「夢と希望」はそのものじゃなくって高校の卒業文集の名前ね、念のため。
本と書かれたダンボールはそのまま書庫へ、服と書かれた段ボールはそのまま寝室へ。
同時にこちらで買い足す必要がある物を再確認しつつメモしていく。
洗濯機・電子レンジ・物干しざおの代わりになるロープか何か。
ティッシュにトイレットペーパー・水周りと洗剤一式の消耗品。
タオル類は服の箱にも入ってると思うけど少なめのはずだから書いておく。
電気カーペットかコタツ。コタツを買わないなら食卓にするテーブルと椅子。
んー……
畳の感触が好きだから、出来ればカーペットは別に買いたいかなぁ。
ちょっと悩んでコタツと書く。あと通路用のカーペットとキッチンマット。
「あ、サイズも計らなきゃ」
裁縫セットに入ってた最大1mのメジャーでがんばって計る。
横幅と、長さ。
計り終えてしまってから別にぴったりじゃなくっても良いんだって気付いたけど、それはそれこれはこれって言うでしょう?
と、自分に言い訳してみる。
居間に残していた箱を全部開けて場所を作り終えたらそこに畳マットを敷いて行く。
重ならないように、隙間が出来ないように。
一番上に重なっていた一枚だけが太陽の光で温かくなっていた。
ふう。
温かい畳の上を選んで座り、ため息をつく。
まだまだやること山積みだけど、とりあえず小休止。
チュンッ
開けていた窓の外で雀が小さく囀る。
気がつけばベランダの手すりに止まっているのは茶色い帽子の男の子。
こんな都会みたいな場所でも鳥はいるんだなぁ。
そう思ってじっと見つめていたら二歩・三歩と横に飛び跳ねた後、すぐに飛んで行ってしまった。
「あーあ」
逃げなくったって、良いじゃない。
バタリと畳に倒れ込んで、うーんと背のび。
そのままの場所からでも窓の向こうに雲ひとつない青空が見える。
あ、そろそろお昼ごはん作らなくっちゃ。
けれど、ついさっきまで冷蔵庫も無かったんだからろくな材料は無い。
まずはお買いもの、かな。
昨日引っ越してきたばかりでこの周りのお店もあんまり知らないし、良さそうなお店があったら外食でも良い。
妹は夕方まで帰ってこないからお昼も外で食べるって言ってたし、それも良いな。
「そうしようかな」
ふん♪ふん♪ふふ~ん♪
鼻歌まじりに外に出る仕度をしながら、まだ見ぬ名店を思い浮かべる。
ちょっと、ううん。とても楽しみ。
美味しいお店に出会えると良いな。
お洋服もばっちり、お財布も持ったしまだまだ綺麗な鍵も持った。
小さなショルダーバッグの中には、けれど大きなエコバックを忍ばせて。
よし、準備はばっちり――ばっちり?
あ、そうそう。
出掛ける前に窓を閉めて行かなきゃ。
ここは確かに4階だけど、誰かが飛び込んで来るかもしれないでしょう?
きちんと閉じて、鍵もかけて。
「いってきま~す」
パタンっ
さっきよりずっと小さな音をたてて、扉が閉まった。
Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-2b>>
原作⇒『Baroque Night-eclipse』 http://bne.chocolop.net/top/
ゆっくりと、ゲームをプレイしつつ書き進めて行きたいと思います。
スタートダッシュで筆も進んだ(当社比)けれど、そろそろペースダウンしそうな予感。